第1 はじめに
病院や医師等に対して、債務不履行(民法415条)或いは不法行為(民法709条)を理由として損害賠償責任を追及していくためには、行為者である医師や看護師等に「過失」が備わっていなければならない。過失とは、当該行為者が注意をすれば、結果の発生を予見でき、結果の発生を回避することができたのに、注意を尽くさなかったために、結果の発生を予見せず、結果の発生を回避するための措置を採らなかった、という注意義務違反を意味する。そして、医事訴訟事件において、この注意義務の基準となるのが、「医療水準」という概念である 。
過失について
~医療水準論に関する考察~
第1 はじめに
病院や医師等に対して、債務不履行(民法415条)或いは不法行為(民法709条)を理由として損害賠償責任を追及していくためには、行為者である医師や看護師等に「過失」が備わっていなければならない。過失とは、当該行為者が注意をすれば、結果の発生を予見でき、結果の発生を回避することができたのに、注意を尽くさなかったために、結果の発生を予見せず、結果の発生を回避するための措置を採らなかった、という注意義務違反を意味する。そして、医事訴訟事件において、この注意義務の基準となるのが、「医療水準」という概念である 。
「過失」の有無(さらには程度)は、故意と異なり、高度の規範的評価を伴うものであって、その判断は非常に難しい。現に、多くの医事訴訟事件においては、過失の有無が最大の争点となっている。
医療の現場においては、日々、高度の医学的な専門知識や経験に基づいて各種の医療行為が行われ、そこで実施される行為は、患者の生命や身体に大きな影響を与えるものである。
しかし、だからといって、死亡したり治癒しなかったりという結果にのみ捉われて、医療従事...