行動経済学で「何が」できるのか?
1,伝統的なファイナンス理論にとって,数理的な分析手法は,今日においても重要な要
素である。基礎となっているのは統計学や確率論であり,「平均」の概念や「標準偏差」
が使われることが多い。また,金融工学においては価格変動率が正規分布に従うとの基本
命題がある。ところが,実際の金融資産の価格変動率は,必ずしも正規分布にはならず,
いわゆる「ファット・テイル」の様相を呈することが多い。この「テイル・リスク」は,
いわゆるリーマン・ショックによって,伝統的な金融工学に基づくリスク管理の限界が露
呈した。
このように,バブルの発生や崩壊,金融危機への対応として有効な手が打てなかったこと
の原因には,正規分布などを用いてモデルを構築するという伝統的なファイナンス理論へ
の過信があったといえる。
2,現在の行動経済・ファイナンス理論には,今のところ,①理論として体系化されるこ
と,②理論が解明するのはどの程度のタイムスパンかを明確にすること,③アプローチ手
法が心理学に由来するとの理論は恣意的であるという批判に対する実証データの貯蓄が十
分でないなど,改善されるべき...