法と道徳は、どちらも社会秩序を支え人々の行動を規制する代表的な社会規範であるが、その関係は様々であり、『右の頬を打たれれば左の頬もさしだせ』という道徳規範や、右側通行か左側通行かに関する交通法規のように、法と道徳が相互に無関係な領域もある。これに対し、『人を殺してはいけない』といったような、法でもあり人間の道徳でもある領域、言い換えれば、法には道徳に裏付けられたものとそうでないものとがある。それでは両者の根本的な相違点はどこにあるのであろう。
第一に、法は人間の外面的な行為に関する規範であるが、道徳は人間の内心に関する規範であるという見解がある。しかし、法の関心が外面性のみに向けられ、道徳のそれは単に内面性のみに無冠規範であるとは言い切れない。法もまた人の内心の意思にかかわりを持つことが少なくないし、他方、道徳の場合も人間の外面的行為と関係を持つことが少なくないからである。
第二に、両者の区別を法的義務の双務性と道徳的義務の片務性に求める見解がある。すなわち、法的義務は特定の権利者を相手方として予定するが、道徳的義務の場合は義務履行の相手方として特定の者がなく、良心に対する義務というよ...