行政法 課税における行政解釈の問題

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    資料紹介

    資料の原本内容

    ―ストックオプション訴訟における私たちが目を向けるべき課題―
    1. おさらい…一連のストックオプション訴訟について

    ストックオプションを「一時所得」として確定申告するも、税務署は「給与所得」であるとして増額更正処分と過少申告加算税賦課決定処分を賦課決定した。この処分を不服とし処分の取り消しを訴えた。(⇒同様の訴訟が100件)

    ここで争点となったのは「ストックオプションは給与所得か一時所得か」という点と「過少申告をしてしまったことに正当な理由があるか」という点。前者は平成17年1月25日の最高裁判決により「給与所得」と判決され、後者は平成18年10月24日や同18年11月16日の最高裁判決において「正当な理由あり」と判決された。
    2. ストックオプション訴訟で見られた意義と課題

    この訴訟は一部の富裕層に限られた特殊な問題であるのか?

    私はこの問題において私たちも目を向けるべき意義と課題があると考える。
    意義その1:安易な課税に対する最高裁の指摘

    通達変更(平成14年)までの課税庁の指導

    平成10年以前はほとんどの税務署が「一時所得」と回答、公刊物にも明記

    同10年頃、課税庁内部で「一時所得」から「給与所得」へと見解変更

    同11年半ば、一部の課税庁が平成8~10年分まで3年間遡って修正申告を要求
    ⇒租税法律主義違反?(予測可能性と法的安定性の侵害)

      ➢戦後最高裁が租税法律主義違反で違憲とした判決は存在しない

    ⇒信義則(禁反言の法理)に反する?

           ➢厳格な要件が必要(最判昭和62年10月30日)
    判旨において「従来の取り扱いを変更するのであれば、課税庁は、通達を発するなどの必要な措置をきちんと講ずるべきであった。にもかかわらずこれを怠った」(最高裁平成18年10月24日)とあるように課税庁の責任が明言された。

    さらに「課税庁が従来の取り扱いを変更しようとする場合には法令の改正によることが望

    ましい」と指摘し租税法律主義の精神を汲む。

    ➢本件のように法改正や通達改正をしないまま突然に課税変更を行うことが事実上困難になった
    意義その2:より適切な課税と納税の実現

    平成18年の最高裁判決「正当な理由あり」⇒納税者が課税庁の通達を争うこと     (真摯な挑戦)が「正当な理由」として認められたという意義があった。             

    真摯な挑戦とは…①「税務行政の適正さを維持するための納税者の主体的な行動」

            ②「正しい申告をしようという態度」(帳簿書類等を十分に備える)

            ③「『関連する諸規定に照らし、それが主張された時点において十分に維持される可能性があった』という程度の正当性」

    ➢納税者には言うべきことを全て言わせ、課税庁がその挑戦を受け止め自らの正しさを証明してゆくことにより、納税者の納得を得る。つまるところ課税行政の発展に導く。(参照:佐藤英明「過少申告加算税を免除する『正当な理由』に関する一考察」1993)
    課題:「正当な理由」の射程

    実務における「正当な理由」の問題点…①狭すぎる適用範囲(不可抗力説)

                      ②納税の結果責任(過少申告すれば理由に関わらず加算税が賦課されてしまう)

    過少申告加算税は過少申告させないための制裁制度。しかし過少申告がないように適正な努力をしても制裁が科されると、納税者の努力する意欲をそいでしまう恐れがある。

    ⇐「納税者が合理的に考えて無過失であること」は過少申告加算税の消極要件(=「正当な理由」)(佐藤1993)
    ➢判決文において「少なくともそれ(平成14年の通達改正)までの間は」「一時所得として申告したとしても、それには無理からぬ面がある」とあるから、通達の改正時までは「正当な理由」を主張できる。

    ⇔「通達が行政内部のもので、国民を拘束できないものであることから、本件では、ストックオプション権利行使益を給与所得とした最高裁平成17年1月25日までは『正当な理由』が認められる」(小林)

    またこのような最高裁判決がなければ「通達改正後複数の下級審判決が支持しているような法解釈に基づく『過少申告』であれば、たとえ反対の下級審判決がある場合でも、『正当な理由』ありと解するのが相当ではないだろうか」(岡)

    「本判決は課税庁の側で満たすべき最低限の条件を確認した判決として理解すべきであり、『正当な理由』の射程については、今後の判例の展開による明確化が待たれる。」(藤谷)
    まとめ

    一連のストックオプション訴訟を見ていく中で、“税金”に対する私人と行政の考え方のギャップが見えたような気がする。国民は税率の1%の増減に目を光らせている一方、課税する側は本件のように安易な課税をしてしまうという現状である。

    この問題を再び起こさないためには意義その1にあるように租税法律主義の徹底が第一である。さらに課税をより納税者が納得する形にし、なおかつ税制を発展させるために、より「正当な理由」となる射程を広げ、納税者と課税庁が真摯に向き合えるよう制度や判例を形作っていくべきであると考える。
    参考文献

    ●佐藤英明 総合税制研究 No2 p91~110

    ●小林博志 判例評論585号p168~170

    ●岡正昌  NBL No848 p4,5

    ●藤谷武史 ジュリストNo.1354 p42,43

    ●鳥飼重和 法学セミナー No615 p6~8

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