『「死せる魂」の社会史』を読んで(要約・書評・感想)
序
本書は、18世紀以降の近世ロシアに生きる農民たちの日常生活や内面意識を、身分制や共同体生活の観点から、豊富な資料を基に描き出したものである。
一般的に近世ロシアというと、啓蒙専制君主による中央集権化と急速な近代化・大国化といった教科書的なイメージを抱きがちである。しかし、近世ヨーロッパ全体で人口的に多数を占めていた農民の生活・意識を理解することなく、近世社会の実像を捉えることは困難であると思う。その意味で、本書で詳細に分析された農民の在り方は非常に興味深いものである。
以下では、本書に描かれた農奴制の下での農民の生と意識についてまとめていきたい。
1. 農奴制と共同体
18世紀ロシアの人口の大多数を占めていたのは、他の欧州諸国と同様に農民であった。その実情は、農民の納税義務の徹底のために政府が度々実施した人口調査に見ることができる。本書では、農民の中でも「農奴」と呼ばれる領主の人格的支配の下にあった人々を主に扱うが、彼らは全農民の約半数を占めていた。
農民はその規模の差こそあれ、ミールと呼ばれる共同体の中で生活していた...