ソーントン・ワイルダー作『わが町』の主題について述べよ。
『わが町』は、明らかにそれまでのアメリカ演劇におけるリアリズムからの飛躍を意図して作られた。リアリズムということに関して、劇作家アーサー・ミラーがこう述べている「・・・その特徴は何か、・・・まず散文で書かれていること。・・・すべて実人生そのままと思わせるのが目的で・・・」とある。ワイルダーの『わが町』は、これに照らすなら、明らかにリアリズムではない。登場人物が観客に向かって語りかけ、これは作り物ですよ、と断っているのである。死人が話をするところなど、実人生そのままであるはずがない。しかし彼の描こうとしたリアリティーとは、ミラーが定義したものとは異なる。ワイルダーはそれまでのリアリズムについて、19世紀に中産階級が演劇を支配したことが間違いのもとで、彼らは反抗心や、批判精神を持たず、演劇を自分たちの実生活とは内容的に関わりのない娯楽と考え、シェイクスピアをすら緞帳と額縁のかなたに押しやり、演劇を博物館の陳列ケースの中に閉じ込めてその生命を窒息させてしまった、と語っている。演劇を自分たちの実生活とは関わりのないものとして扱ってきた...