国木田独歩作『忘れ得ぬ人々』を読み、そこに表現されている人間認識及び人生観について述べよ
国木田独歩作『忘れ得ぬ人々』を読み、そこに表現されている人間認識及び人生観について述べよ。
作品冒頭、「忘れえぬ人は必ずしも忘れて叶ふまじき人にあらず」とある。つまり「親とか子とか又は朋友知己そのほか自分の世話になった教師先輩の如きは、つまり単に忘れえぬ人とのみはいえない。忘れて叶うまじき人といわなければならない。」
これが「忘れて叶うまじき人」である。それでは「忘れえぬ人」とは何なのか。
それは「恩愛の契もなければ義理もない、ほんの赤の他人であつて、本来をいふと忘れて了つたところで人情をも義理をも欠かないで、而も終に忘れて了ふことの出来ない人がある」ともある。
これが「忘れえぬ人」である。
このように独歩は身近にあって恩愛を受けた人を「忘れて叶ふまじき人」とし、自らが遭遇した風景の中にだけ存在した、直接的には関係のない人を「忘れえぬ人」としている。通常、小説は「忘れて叶ふまじき人」について書かれるものである。そこを独歩は、この「忘れえぬ人々」を主題にして小説を書いた。
作品の舞台となっているのは、二子新地から大山街道を西へ少し行った「溝の口」である。
ここで大津と秋山が出会う。春まだ...