『三国伝記』巻十二第三「恵心院源信僧都事」における唱導文学的特徴について述べよ。
『三国伝記』巻十二第三「恵心院源信僧都事」における唱導文学的特徴について述べよ。
『三国伝記』は室町中期、沙弥玄棟の撰によるもので十二巻三百六十話からなる説話集である。天竺(インド)・震旦(中国)・本朝(日本)三国の仏教説話を主体に、当代の現実も混じえ、絢爛たる文体で語られる。
天竺の僧・梵語坊と大明の俗漢字郎、本朝の遁世僧・和阿弥という三人が丁亥年の八月十七日夜に東山の清水寺に参会し、月が出るまでの間の余興に物語を語り合ったという体裁をとる。
これの巻十二第三にある「恵心院源信僧都事」という説話は、源信について語る「説草」に拠ったものと考えられる。説草とは、説話集の形にはまだ至らない、説話を単体として記録したもので、「説草」あるいは「小さな説話本」と称される。その形態から見て、僧侶が懐中して説経の場に持ち込んだものであろう。
「まことに説経僧の手控えこそが実は説話文学を生む有力な地盤であった。そういう手控えが更に修正され、大成されると説話文学集を産んできたわけである」(『室町文学の世界 面白の花の都や』p.48、岡見正雄、岩波書店、平成八年)
この説話集と唱導の関係が、まさにその...