目的
①発熱状態を知る.
②他のバイタルサインと比較する.
③疾患の治療の経過や治療の効果を知る手がかりとする.
必要物品
①体温計,②筆記用具(メモと鉛筆),③時計,④アルコール綿
ポイント
経過観察では,同じ種類の体温計を用いて、同じ部位で測定する
各測定部位において最も高い温度が得られる位置に体温計を正しく挿入する
体温に影響を与える生理的な変動因子(年齢,環境:温度,食事,運動,睡眠,入浴など)を踏まえて測定結果を判断する
禁忌・注意点
1)測定部位に適した体温計を選択する.
2)使用する前に破損がないか確認する.
①水銀体温計:破損の有無と目盛り35℃以下に水銀が降りていることを確認する.
②電子体温計:破損の有無と電池切れのないことを確認する.
3)最高の温度が測定されるように測定部位および測定時間.方法を守る。
4)麻痺などがある場合の測定は,健側で行う.
5)禁忌
①腋窩での測定は.麻痺側.側臥位の下側では行わない.
②口腔での測定は,乳幼児,意識のない場合,精神不穏の場合,痴呆のある場合や口腔内に損傷がある場合また,口腔内で体温計を保持できない場合(呼吸困難,鼻閉,激しい咳嗽がある場合)は,避ける,
③直腸での測定は,直腸や肛門に疾患がある場合は行わない,
Ⅰ.腋窩温の測定
1.測定することを説明する
●あらかじめ腋窩を閉じておく
○腋窩を開いた状態では皮膚温より低い温度環境にあり腋窩温が一定になるまでに時間がかかる
●測定中に腋窩を開かないようにする
腋窩の状態と検温時間に及ぼす影響
2.発汗している場合は,乾いたタオルで拭く
○皮膚に体温計が密着するようにし,汗による熱の放散を避ける
3体温計を挿人する
●前下方から後上方に向けて挿入する
○温度の最も高い腋窩の最深部に体温計の感温部(先端)が当たり密着させることにより,核心温を測定する
4.体温計を固定する
●体温計を挿入した側の上腕で反対の腕を押さえる
○腋窩腔を密閉した状態に保つとともに体温計を密着させることにより,核心温を測定する
5.測定時間は10分以上とする
●水銀体温計の場合は,10分間以上とする
●電子体温計の場合は,所定の時間測定する
○飽和状態になるまで10分程度かかる(図2参照)
6.値を読み,記録する
●水銀体温計の場合は,長軸と視線が直角になるようにして読む
○誤差をなくす
7.体温計を消毒する
●石鹸を用いて流水で洗い,柔らかいタオルで拭く
○感染予防
●電子体温計の場合は,アルコール綿で拭く
8.所定の場所にしまう
●水銀体温計の場合は,35.0℃以下に下ろして,しまう
●電子体温計の場合は,専用のケースに入れるまたはスイッチを切る
○電池の消耗を防ぐ
Ⅱ.口腔温の測定
1.測定することを説明する
●測定前10分以内に冷たいものや熱いものを飲食しない
○飲食物や空気による口腔内温度の変化を避ける
●長時間の会話を避け,室温にも注意する
○特に口腔温との温度差の大きい飲食物は30分前から摂取しないよう説明する
2.体温計を挿人する
●体温計の先端(感温部)は舌小帯を避け,中央部に当たるように斜めに挿入する
○舌中央部が最も温度が高い正中から挿入すると舌小帯に当たり,疼痛がある
○体温計の固定がしやすい
3.体温計を固定する
●口唇を閉じて軽く保持し,体温計を噛まないようにする
○強く保持すると口唇およびその周囲の筋肉の疲れや唾液の分泌を促進し,正確な温度が得られにくい
4.測定時間は,5分以上とする
●水銀体温計の場合は,5分以上とする
○飽和状態になるまで3~5分程度かかる
●電子体温計の場合は,所定の時間測定する
5.値を読み,記録する
●体温計に付着物をアルコール綿で拭き取る
○唾液などを取り除き,値を読みやすくするとともに,唾液が手につかないようにする
●水銀体温計の場合は,長軸と視線が直角になるようにして読む
○誤差をなくす
6.体温計を消毒する
●個人専用の場合は,石鹸を用いて流水で洗い,タオルで拭く
○感染予防
●共用の場合また感染症の種類により消毒方法を選択する
●電子体温計の場合は,アルコール綿で拭く
7.所定の場所にしまう
●水銀体温計の場合は,35.0℃以下に下ろして,しまう
●電子体温計の場合は,専用のケースに入れるまたはスイッチを切る
○電池の消耗を防ぐ
Ⅲ.直腸温の測定
1.測定することを説明する
2.体位をとる
●側臥位か仰臥位とし,下着やおむつをはずす
○安全に体温計を挿入しやすい体位とする
3.体温計に潤滑油を塗る
●体温計の先から2~3cmに白色ワセリンまたはオリーブ油を塗る
○摩擦を少なくして,挿入しやすくするとともに不快感を和らげる
4.体温計を肛門よりゆっくり挿入する
●肛門を片方の手の母指と示指で開くようにしてもう一方の手で体温計を挿入する
○直腸の長さを考慮する
○挿入しすぎて直腸を傷つけない
●挿入の長さは,成人:5~6cm,乳幼児:2.5~3cmとし,体温計に印をつけておく
5.体温計を固定する
●測定中は,おむつやちり紙を当て,体温計が動かないように固定する
○体動により体温計が抜けたり,損傷しないように測定者が固定する
6.測定時間は,3分以上とする
●水銀体温計の場合は,3分間以上とする
○飽和状態になるまで1~2分程度かかる
●電子体温計の場合は,所定の時間測定する
7.値を読み,記録する
●体温計に付着した付着物を柔らかい紙で拭き取る
○便や粘液などを取り除き,値を読みやすくする
○便が付着し汚染されているので感染に注意する
●水銀体温計の場合は,長軸と視線が直角になるようにして読む
○誤差をなくす
8.下着やおむつ,衣服を整え,体位を戻す
○安楽を図る
9.体温計を消毒する
●感染の有無を確認して消毒方法を選択する
○感染予防
10。所定の場所にしまう
●水銀体温計の場合は,35.0℃以下に下ろして,しまう
●電子体温計の場合は,専用のケースに入れるまたはスイッチを切る
○電池の消耗を防ぐ
※その他の知っておくべき事項
①電子体温計は,予測温式と直示式があり,測定時間は予測温式では約1分,直示式は水銀体温計に準じるのでいずれのものかを確認して使用する.
②体温は個人差があるので,異常の判断をするには一般的な値のみではなく,平素の個人の体温と比較することが大切である.
③年齢による体温の変動.
新生児:体温調整が不安定で外環境に影響されやすい.37℃以上ある.
生後100日ごろから37℃以下になり120日を過ぎると安定する.
2歳ごろ:日差が現れてくる.
10歳ごろ:体温調整機能が成人と同じになり,不意の発熱が少なくなる.
老人:一般に低いといわれる.皮膚の熱伝導度が低く,腋窩温では低く測定される.
④疾病に特有の発熱の状態として以下の三つの熱型がある.
稽留熱:高熱で1日の体温の差が1℃以内のもの.肺炎や腸チフスにみられる.
弛張熱:1日の体温の差が1℃以上に及ぶ.敗血症や結核にみられる.
間欠熱:高熱と平熱状態が一定の期間をおいて交互に現れる.マラリアや回帰熱にみられる.
⑤感染症のある場合は,感染源に従い薬液消毒を行う.ただし,電子体温計によっては,薬液消毒ができないものもあるので,取り扱い説明書で確認すること.感染症のある,または疑いのある場合は,個人用の体温計を用意して1本の体温計を使いまわししないことが望ましい.
⑥安定した温度が得られ,測定時間が短く,操作も簡単な体温測定方法として耳式の体温計が臨床および家庭用としても普及し始めている.
⑦耳式体温計を用いた鼓膜体温測定は,他の方法よりも短時間で核心温に近い測定値が得られるということで行われてきている.しかし,測定方法や耳孔の長さ,形の個人差により誤差が生じやすい.正しい方法で測定することが重要である.同一体位を長時間保持できない小児で使われることがある.
体温測定(腋窩,口腔,直腸)
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