目的
食事動作が自力では困難な患者に,個々のニーズに適した方法で食事摂取を介助することにより,必要な栄養や水分を摂取し,食事に対する満足感や残存機能を効果的に生かして自立への意欲をもたせる.
必要物品
①食膳,②食事用具(箸,スプーン,フオーク,ストロー,コップまたは吸い飲み),③手拭きタオル,
④ナプキン,フェースタオルまたは食事用エプロン,⑤体位を支持するための枕
ポイント
食事動作が困難なときに行う
生命維持に必要なエネルギー,栄養素を確保する
食事動作および摂食・嚥下の自立に向けて介助する
食欲と随伴する食の楽しみを満たす
介助者や他の患者と行動を共有することでの連帯感を大切にする
食事摂取に伴うリスクを防止する
注意点
①食事動作に問題がなくても,以下のような場合には食事介助を要するので,患者の病状を正しく把握し,適切な援助を実施する.
・視力障害のある患者および眼科術後の患者・失行,失認など高次脳機能障害のある患者.認知症,抑うつ.幻覚,妄想・せん妄など精神症状のある患者
・拒食のある息者
②特殊な食事用具や自助具の活用
食事は人間の生活に欠かせない楽しみの一つである.食事動作が不自由な患者にとって,自助具を活用して自分で食事をとることは能力障害に対する代償的アプローチとして重要であり,何より充実感や意欲を持つことにつながる.個々の食事動作を正しくアセスメントし,適した食事用具や自助具を用いることも重要な援助である.
③摂食・嚥下障害や気管切開がある患者では適切なアセスメントを行い.訓練として食事介助を実施する.
Ⅰ.全介助(仰臥位)
1.患者の状態を把握し, 必要な援助を行う
●日常の口腔衛生に留意し,口腔内の状態(粘膜,歯肉,舌,歯牙,義歯の適合など)を観察する
①食前後の口腔衛生の習慣を大切にする
○口腔内を清潔にすることで爽快感が増し,味覚や触感など食事を楽しむことができる.また,口腔内が汚染されていると舌苔が生じて味覚が低下したり唾液分泌が低下して咀しゃく・嚥下の障害となる.歯周病,舌苔,口内炎,う歯,義歯不適合による潰瘍などの予防と症状の緩和
②口内炎など口腔内の炎症がある場合には,消炎・消毒作用のある口腔用剤を用いて,食前(後)に含徽する
③疼痛が著しい口内炎に対しては,口腔用貼布剤や局所麻酔剤による含嗽を試みる
●食欲の有無や,食欲不振につながる苦痛な症状の有無などを観察し,食事が可能かの判断および必要な援助を行う
○食欲不振の要因を軽減し,食事に対する意欲を高める
①生活のリズムを整え,適度の身体活動を取り入れる
②排便の習慣をつけ,便秘を予防する
③疼痛,発熱がある場合には,事前に解熱剤,鎮痛剤の投与するほか,必要なケアを実施する
○疼痛や不快症状を除去し,食欲を増す
④排痰を促す
○喀痰が貯留していると食塊による咽頭刺激で咳,痰が誘発され,誤嚥や呼吸困難を生じる
2.患者の準備を整える
●検査や治療処置が食事にかからないように調整しておく
○食事の中断や処置に伴う不快は食欲を低下させる
●排泄を済ませておく
3.病室環境を整える
●室内の換気をしておく
○臭気や騒音,視野に入る不快なものを取り除く
●病床,床頭台,オーバーベッドテープルの清潔を確認する
●汚物を処理し,尿器,便器,吸引瓶などが目に触れないように配慮する
●大部屋で重症者や処置中の患者がいる場合にはカーテンを引く
4.食膳を準備する
●介助者は準備前に身支度,手洗いをする
○食器,食品を清潔に扱うとともに,清潔感を与える
●食札にて食膳を確認する
○食事は治療の.一環であり,配膳の誤りは避けなければならない
●食形態,献の種類,開口陳害の有無,咀しゃく力などに応じて食事用具とその大きさを工夫する
○スムーズな介助により患者の負担を軽減する食形態の種類:常食,きざみ食,軟食(全粥,7分粥,5分粥,3分粥,1分粥),流動食,嚥下訓練食(ブレンダー食,ペースト状,ポタージュ状など)
5.食膳を患者の元に運ぶ
●床頭台またはオーバーベッドテーブルに食膳をのせる
○視覚も食欲を増進する因子として重要である
●食膳がみえる位置に工夫する
6.患者の体位を整える
●仰臥位をとる
○可能な場合は,少しでも上半身を挙上すると嚥下しやすい
●患者を介助側に寄せる
●頚部をやや前屈位になるよう,枕の高さを調節する
○患者の口元に十分に手が届く距離でないと,介助しにくい
●膝下に枕を挿入するなど,患者の希望に応じて安楽な体位を工夫する
○頸部の前屈により,咽頭と気管に角度がつき,誤嚥しにくくなる
●顔を横に向け,フェースタオルかナプキンを顔から胸元にかける
○腹部膨満感を和らげる
●片側麻痺がある場合は,麻痺側が上になるように横を向ける
○患側が上になることで食塊が健側を通過し誤嚥しにくくなる
7食事介助をする
①準備
●患者の手を拭く
○食事の習慣を大切にする
●必要時含嗽する
○口腔内の不快を除く
●介助者は椅子に腰掛け,ゆったりした気分で介助する
○患者が落ち着いて食事ができる雰囲気をつくる
②献立説明
●食材や調理法,色彩,香りなどの話題を交え説明を工夫する
○食事への興味をそそり,食べてみようという気持ちにさせる
①吸い飲みまたはストローを口角にあてくわえさせる
○口腔粘膜,消化管粘膜を湿らすことで,食物の通過をスムースにするとともに,胃液の分泌を促す
②十分に吸ったら手で合図をしてもらうか,嚥下運動を観察し1,2度嚥下したらやめる(わかりにくい場合は甲状軟骨の高さに軽く栂指と示指を当て,喉頭が挙上するのを確認する)
○吸い飲みは量の加減がむずかしいのでよく観察しながら与える
○ストローは自分で量を加減できるが吸う力が弱いと疲労する
③味噌汁やスープをスプーンで与えるときは,舌を軽く上顎の方にあげてもらい,頬をつたうように流し込む
○水分と固形物が混じるものは誤嚥しやすいので十分注意する
③最初にお茶や汁物を飲用させる
●箸をお茶か汁物で湿らせる
○米飯の箸ばなれをよくする
④主食副食
●患者の好みを聴きながら,主食と副食を交互に介助する
○患者の好みやペースに合わせた介助を行う
①「次は○○でいいですか」と声をかけながら行う
②患者の反応から好みや食事摂取のペースを把握する
③患者が言葉で説明しなければいけない問いかけを避ける
●食物を食べやすい状態にする
①魚の骨を取り除き,身をほぐす
○時間の節約
○粘膜の損傷や火傷を防ぐ
②咀しゃく力や開口の程度にあわせ,一口量を考慮する
○1回量が多すぎると咀しゃく困難となり,少なすぎると満足感がない
③肉類や切り身の大きい野菜は一口大に切っておく
④麺類はスプーンにのるくらいの長さに切る
⑤温度を確認して必要時冷ます
●嚥下したことを確認してから次を摂取させる(甲状軟骨の動きを観察する)
○完全に嚥下しないとむせやすい
●口腔内(特に歯肉と頗の間や舌の下)に食塊が残っているときは繰り返し嚥下する
●咀しゃく・嚥下中に話しかけない
⑤水分の摂取
●食事の合間にお茶や汁物の飲用を介助する
○臥床中の患者は水分摂取が不足しがちなので,1回の食事でどの程度の水分補給をするのか,あらかじめ目標量を計算しておく
●高齢者などで誤嚥しやすいときは,とろみ調整剤(増粘剤)を使用し,お茶,汁物,水,ジュースなどにとろみをつける
○液状のものに粘度をつけることで嚥下しやすくなる(とろみ調整剤の成分はでんぷん,デキストリン,食物繊維で,無味,無臭であるが触感を損なう.1g当たり3.7kcalあるので肥満・糖尿病のある患者ではとりすぎに注意する)
⑥会話を楽しむ
●楽しい話題を提供したり,雰囲気づくりをする
○介助されることへの抵抗感や緊張を和らげる
8.食後の清潔
●最後にお茶を飲用し口腔内を清潔にする
○口腔内に食物残渣や味が残らないようにする
●ナプキンで口の周囲などの汚れをとる
○不快感を残さないようにする
●歯磨きや口腔清掃,または含漱を行う
○清潔習慣として,またう歯,歯周病,口内炎を予防する
●リネン・寝衣の汚れや食物がこぼれていないか確認する
○寝たきりの場合口腔内の清潔は誤嚥性肺炎の予防につながる
●下膳し,食事用具を洗浄する
○感染者の食器は一般に水道水でよく洗い流し通常の洗浄を実施する
9.食後の安静
●患者を元の位置に戻す
○疲労を和らげ,消化を助ける
●側臥位にするなど,患者の希望に応じて安楽な体位を工夫する
○胃の位置から右側臥位が望ましい
●可能であれば少しでも頭側を挙上する
○胃・食道逆流を防止する
10.食中、食後の観察
●食への満足感,食品の嗜好などを観察
○患者の嗜好を取り入れ満足感を充足する
●食事のペース,所要時間の観察
○介助方法や食形態の適否をアセスメントする
●咀しゃく,嚥下困難や消化器症状(悪心,嘔吐,腹部膨満,腹痛など)の有無を観察
○咀しゃく,嚥下,消化,吸収機能,食形態や調理法変更の必要性をアセスメントする
●摂取量(エネルギー,栄養素,水分)を把握する
○エネルギー量の不足や栄獲の偏りを是正し,必要な水分量を確保する
Ⅱ.部分介助(側臥位)
1.患者の状態を把握し, 必要な援助を行う
●○全介助参照
2.患者の準備を整える
●○全介助参照
3.病室環境を整える
●○全介助参照
4.食膳を準備する
●介助者は準備前に身支度,手洗いをする
○食器,食品を清潔に扱うとともに,清潔感を与える
●食札にて食膳を確認する
○食事は治療の一環であり,配膳の誤りは避けなければならない
●食事動作の白立...