テーマ選定にあたり:
昨今、地球規模での環境保全の問題が非常に重要視されています。GDPにおいては日本を抜く勢いで、更なる成長を続ける大国中国。中国のこの環境に対する「地球的視野を持った取り組み」をレポートし、日中双方の方が正しい情報を共有することを目的とし、以下に綴ることとしました。
序記:
私が初めて出張で中国を訪れたのは2001年のことで、今年で10年目となります。出張先は広東州の広州という、中国でも有数の大都市であり、ここを拠点に今まで中国の各地を巡って来ました。
この10年間に、ここ広州の環境状況はかなり改善されてきました。日本人にとっては当たり前のことですが、今ではここ広州市内においても、天気の良い日には青空が見えますし、夜になれば、星々も確認できます。10年前はというと、晴れた日中でも、見上げる空の色は一面乳白色で、超高層ビルの最上部はいつもガスの中にシルエット状に映っていました。夜も同様で、星どころか月でさえ、その存在を確認するのは難しかったのを覚えています。
中国環境汚染の実態:
2004年に人民日報がページ全面を使い日本の水俣病大特集を組み、工場排水による環境汚染問題を大々的に報じました。この様な報道は今までには無かった事です。中国国内で、環境の問題が出始めたのは、ちょうどこの頃からであります。
今まで成長一点張りのこれまでのやり方のツケが、この頃より各地で環境汚染が深刻化する現象を招き、この年、黄河流域では、汚染による年経済損失が 156億元に達し、27億元の健康被害をも生む結果となりました。(1元は約 150円)億元にも達し、汚染による河水の 60%が工業用水・農業用水にも使用できなくなる状況に至り、更に漁業への影響も深刻となり、2003年の天然漁業の損失額だけでも 36億元にも上がりました。
またこの年は、四川省で深刻な汚染事故が発生し、排水による汚染で住民 100万人分の用水が 26日間供給停止になり、その結果、多くの沿岸企業の倒産を招きました。直接的経済損失は 3億元、生態環境の回復には5年以上を要すこととなりました。
この衝撃がまだ覚めやらぬ時、またまた同流域で製紙工場による排水不法投棄があり、大量の魚が死に、62の製紙工場が閉鎖に追い込まれています。
大気汚染の状況も深刻で、二酸化硫黄の排出量は概に環境の引き受け能力の 81%に達し国土の3分の1が深刻な酸性雨の被害を受け、ついに年損害額は 1100億元に達してしまいました。
年間放出量の 34 ,6%を占めているのが火力発電所ですが、ここ数年の深刻な電力不足を解決すべく、火力発電所の能力を倍増させる計画が急ピッチで進められており、大気汚染抑制の為の対策も焦げ眉の急となっている様です。
中国政府の対応:
この様な状況に対処すべく、政府は 2003年に<クリーン生産促進法>を公布、同年、<違法排出企業を取り締まり、大衆の健康を守る環境保護活動>を発動し、200万社あまりを調査し、20 877件を摘発、その結果 7329社が閉鎖に追い込まれ、10 94社が期限付き執行猶予となりました。以上の背景の下、政府は 2004年に入ると本格的な対策に着手しはじめるようになりました。
EUの先端環境管理理念と技術も積極的に取り入れ、4箇所の開発区にてテスト導入され、その後も政府は<クリーン生産推進加速に関する意見>を公布し、6つの市で総合汚染排出許可制度を実施し、違反企業には厳罰で臨む体制を実施しました。場 47社に対して環境汚染を理由に閉鎖を命じ、その賠償として 3億 5千万元が支払われました。 その後も急ピッチで政府の環境問題に関する取り組みは主に取り締まりを中心に行われる様になりました。
この様な動きと連動して、環境政策に関する理念にも大きな変化が生じてきました。<中国環境保護と緑色持続可能発展大会>で、国家環境保護局副局長は“工業型経済から生態型経済(緑色GDP:通常のGDPから環境の保護・再生に必要な費用を引いたもの)への転換の加速”を提言しました。 また緑色GDP統計システムの枠組みを構築することも提言されました。 全人代常務委員会は<恒久性有機汚染物に関するストックホルム条約>を批准し、この様な一連の動きは、中国政府の並々ならぬ決意を示したものと言えましょう。
(以上レポート記述文は、三潴正道(著)現代中国放大鏡より一部抜粋転記)
結論:
地球的規模にも及ぶ、この環境問題。各国、排出ガスの規定枠をめぐりさまざまな論争が繰り広げられています。過去に大量の汚染をバラまいてきた先進国の言い分、そして中国やインドの様な今が発展の真っ最中にある国の言い分、開発発展と大きく矛盾する、そして避けて通る事の出来ないこの問題(対策)に関し、他国(又は自国)の対策内容・努力目標について私たち一個人も深く考えていかなくてはなりません。
自国の事情は大まか把握できるものですが、他国の状況というのはメディアを通して得る情報がどうしてもメインとなりがちです。 今回取り上げた、中国の環境意識に関しても、多くの日本人は “中国は自国の発展開発が主策であり環境問題などは眼中に無いのでは ”と感じていられると思います。
私の感じ方は違います。今中国は、四面楚歌的な危機感で、この問題に正対しています。前記の実態文にも紹介しましたが、中国の昔からの手法として、 ‘くさいものには蓋をしろ ’的な行動はたしかに多く見受けられます。政府の、目的の為ならば多少の犠牲などは顧みない 一昨年の北京オリンピックの開催にあたり、海外のメディア向けに、市街町並みの美化をアピールする為に中国政府が真っ先に行った事とは、古く、観てくれの悪い部分をすべて高い壁で覆い隠してしまうという策でした。根本部分の改善ではなく、一時しのぎに安いメッキを施した様なものです。しかし、これはある意味、中国的効率優先策ともとれると思います。人が怪我をした場合、まずは応急的な治療をします。そして、痛みが引き、ある程度怪我の表面が改善されたところで、傷んだところの本格治療をやっていくでしょう。 先に触れた環境問題への対策においても、まずは怪我(汚染)の炎症を食い止めることを最優先としたが為の、強制策であったとも考えられます。 ここで、私が注目していきたいのは、次に根本的な治療(低公害化への取り組み)をどの様な技術、目標数値をもって、中国が今後推進していくかということです。
50年前の日本はどうでしたでしょうか。オリンピックを挟み、急成長を成し遂げ、あっという間に世界の先進国の仲間入りをした日本です。でも、その当時に今の様なキャップを強制的に被せられていたら、今日の日本の姿は無かったかもしれません。
日本の今日までの発展過程と比較しながらも、今後大国中国の、数々の問題をクリアしてくであろう(期待)中で発展していく姿を是非関心を持ち、注目していきたいと思います。
技術の提供協力という面でも、日本にとっては大きなビジネスチャンスとなってくるはずです。