[目的]
メチルレッドの解離定数を吸光度測定により決定する。
[原理]
Beer の法則 1-1)
電磁波が試料中を通過するとき、特定の周波数の、または特定の周波数領域内の電磁波の
うちのいくらかが吸収される。
入射光ビームが試料中を通過するときのお強度の減少は、光路長、溶液中の吸収成分の
濃度、および入射ビームの強度に比例すことが多い。モル吸光定数εを用いると次の式に
なる。
dI=-εCIdx
式(2.1)
図(2・1)の試料の長さ l にわたって積分し、dI/I=d(lnI)を用いるとつぎのようになる。
I dI
I
= I d lnI
I0 I
0
I
= −ε C 0 dx
式(2.2)
および、
I
ln I = −εCl または I = I0 e−εCl
0
式(2.3)
l をm単位で、
C を molm-3 単位で表すと、
式()からεは m2mol-1 の単位をもつことが分かる。
一般にεは振動数νに依存する。光のビームが試料中を通過するときには、ある振動数の
ビームの強度が指数関数的に減少し、その減少量は濃度と、その振動数におけるモル吸光
定数の値に依存する。
図 2.1 メチルレッドの解離平衡
解離定数 2-1)
酸性溶液中では、
メチルレッドは図 2.1 のような2つの極限構造式で表される構造(HMR 型)
である。塩基を加えると、プロトンは失われ図 のように MR-型になる。塩基型は青や紫
の光を吸収するため、黄色である。メチルレッドの解離に対する平衡定数は次のようにな
る。
K=
H + [MR − ]
[HMR ]
式(2.4)
この式の両辺に対数をとり整理すると、次のようになる。
[HR − ]
pK = pH − log [HMR ]
式(2.5)
平衡定数 K は pH 値が分かっていれば、[MR-]/[HMR]の比の測定から求めることができる。
メチルレッドの2つの型 HMR と MR-は可視領域に強い吸収をもつので[MR-]/[HMR]の
比は分光測定によって測定することができる。酸性および塩基性溶液におけるメチルレッ
ドの吸収スペクトルを測定し、2つの型の混合物を分析するための2つの波長λ1とλ2を
選択する。これら2つの波長は一方では、酸型は塩基型に比べて非常に大きなモル吸光係
数をもち、もう一方では、塩基型が酸型に比べて大きなモル吸光係数をもつように選択す
る。
HMR と MR-の混合組成は、波長λ1とλ2における吸光度 A1 と A2から計算される。
A1 = a1,HMR HMR + a1,MR − [MR−]
式(2.6)
A2 = a2,HMR HMR + a2,MR − [MR−]
式(2.7)
ここで、a1 と a2 はそれぞれλ1とλ2におけるモル吸光係数である。
[実験]
実験装置
分光光度計、pH メーター
試薬
メチルレッド、酢酸ナトリウム、酢酸、塩酸、95%エタノール
実験操作
1、メチルレッドの原液から 2ml を 25ml メスフラスコにとり、エタノール 10ml を加
えてイオン交換水でメスアップをしてメチルレッド標準溶液をつくった。2、以下のよ
うに(ⅰ)~(ⅲ)酸性型メチルレッド、(ⅳ)~(ⅵ)塩基性型メチルレッド溶液を作った。
(ⅰ)メチルレッド標準溶液1ml+0.1M HCl
(ⅱ)メチルレッド標準溶液2ml+0.1M HCl
(ⅲ)メチルレッド標準溶液3ml+0.1M HCl
(ⅳ)メチルレッド標準溶液1ml+0.4M 酢酸ナトリウム
(ⅴ)メチルレッド標準溶液2ml+0.4M 酢酸ナトリウム
(ⅵ)メチルレッド標準溶液3ml+0.4M 酢酸ナトリウム
3、(ⅰ)と(ⅳ)の溶液の吸光度を 340~600nm の範囲で測定し、HMR 型と MR-型の吸
収スペクトルを測定してλ1とλ2を決定した。4、(ⅰ)~(ⅵ)の溶液のλ1とλ2におけ
る吸光度を測定し、Beer の法則が成り立っていることを確認して、HMR 型と MR-型
のλ1とλ2におけるモル吸光係数を決定した。5、0.4M 酢酸ナトリウムと 0.4M 酢酸
を混ぜて pH4、5、6の緩衝溶液をつくった。25ml メスフラスコにメチルレッド標
準溶液 2ml にこの各緩衝溶液を加えて、メスアップした。6、この溶液のλ1とλ2の
ときの吸光度を測定し、式(2.6)と(2.7)から pH4,5,6の時の[MR-]/[HMR]を求め
た。さらに、横軸に log[MR-]/[HMR]を、縦軸に pH をとりプロットして、得られた直
線より pK を決定した。
[結果]
実験2で調整した(ⅰ)メチルレッド標準溶液1ml+0.1M HClと(ⅳ)メチルレッド標準溶
液1ml+0.4M 酢酸ナトリウムの、波長 340~600nm における吸光度の測定結果を以下に示
す。
表 4・1 メチルレッドの(ⅰ)酸型溶液と(ⅳ)塩基型溶液の各波長
における吸光度。赤字はそれぞれの最大吸収波長と吸光度。
吸光度 A(abs)
波長(nm)
(ⅰ)
(ⅱ)
波長(nm)
(ⅰ)
(ⅱ)
340
0.061
0.043
490
0.444
0.148
350
0.037
0.063
500
0.523
0.087
360
0.02
0.095
510
0.58
0.074
370
0.008
0.157
520
0.591
0.056
380
-0.007
0.187
530
0.576
0.045
390
-0.01
0.206
540
0.524
0.048
400
0
0.232
550
0.445
0.045
410
0.007
0.248
560
0.313
-0.009
420
0.022
0.258
570
0.172
0.015
430
0.061
0.268
580
0.069
0.021
440
0.077
0.268
590
0.018
0.035
450
0.125
0.23
600
0.003
0.047
460
0.191
0.242
470
0.277
0.223
480
0.358
0.171
さらに横軸に波長(nm)、縦軸に吸光度(abs)をプロットしたものが図 4・1 である。
これより、λ1とλ2を決定すると、
λ1=450nm
式(4.1)
λ2=510nm
式(4.2)
ここで、試料感度を上げるためλ1は実際の最大波長より 10nm 正に大きな値で、λ2は実
際の最大波長より 10nm 負に大きな値である。
0.7
0.6
吸光度(abs)
0.5
0.4
HMR
0.3
MR-
0.2
0.1
0
-0.1
0
100
200
300
400
500
600
700
波長(nm)
図 4・1
HMR 型と MR-型溶液の波長に対する吸光度のプロット
図 4.1.1 光のスペクトル
塩基性型溶液[MR-]の色は、図 4.1 と 4.1.1 より主に青~緑色の波長を吸収しているため、
黄色~橙色を呈していて、酸性型溶液[HMR]は緑~橙色の波長を吸収しているため、赤色
だと予測され、実際の溶液の色は、
塩基性型溶液[MR-]:黄茶色
酸性型溶液[HMR] :赤茶色
また、酸性型メチルレッド溶液(ⅰ)~(ⅲ)と塩基性型メチルレッド溶液(ⅳ)~(ⅵ)のλ1とλ2
における吸光度の測定結果、さらに濃度に対する吸光度をプロットした結果(図 4・2 参照)
より、Beer の法則が成り立っているとして、求めたモル吸光係数を表 4・2 と 4・3 に示す。
表 4・2 酸性型メチルレッド溶液の各濃度における吸光度
酸型[HMR]
濃度(×10-5mol/l)
1.197
2.395
3.593 モル吸光係数
λ 1(nm):A
0.125
0.244
0.414
a1,HMR
11064
λ 2(nm):A
0.58
1.105
1.728
a2,HMR
47559
表 4・3 塩基性型メチルレッド溶液の各濃度における吸光度
塩基型[MR-]
濃度(×10-5mol/l)
1.197
2.395
3.593 モル吸光係数
λ 1(nm)
0.226
0.441
0.597
a1,MR
17290
λ 2(nm)
0.021
0.043
0.073
a2,MR
1944.4
2
1.8
y = 47559x
R² = 0.9975
1.6
HMR λ2
1.4
MR- λ1
1.2
HMR λ1
1
MR- λ2
y = 17290x
R² = 0.9759
0.8
線形 (HMR λ2)
y = 11064x
R² = 0.9818
0.6
0.4
0.2
0
0.0000E+00
1.0000E-05
2.0000E-05
3.0000E-05
y = 1944.4x
R² = 0.9796
4.0000E-05
線形 (MR- λ1)
線形 (HMR λ1)
線形 (MR- λ2)
図 4・2 λ1とλ2における酸型、塩基型メチルレッド溶液の濃度に対する吸光度のグラフ。その直
線の傾きは、モル吸光係数を意味する。
そして、0.4M ...