1目的
電池の温度変化から、この電池における可逆的反応の熱力学的諸数値を求める。
2原理
ギブズエネルギー
電気化学システムにおいて、仕事として体積変化に加えて、電気仕事
を含んでいる。
つまり、
となる。電気仕事は電位差とそこを移動した電荷の積で与えられるが、その値は変化の経
路に依存する(外部負荷の抵抗の大きさに依存する)。
第二法則において、
であるから、
となり、これに式()から求まる d’q を代入して、
が得られる。
また、電池のギブズエネルギー変化を dG とし、定温低圧過程では、
であり、式()と比較すると、
が得られる。電池のギブズエネルギー変化は状態量であるから、初めの状態と終わりの状
態が定まれば、途中の経路の変化によらず一定となる。右辺の電気仕事は経路によって異
なり、不可逆の場合に電池が外部にする電気仕事は必ず電池のギブズエネルギーの減少量
より小さくなる。
ギブズエネルギー変化は定温低圧変化では、
である。dH は反応に伴う電
池の全エネルギー変化で、このうち、TdS 分は、その温度・圧力における反応物と生成物
の、熱運動と存在する空間容量の差にもとずくエネルギーである。可逆的に反応を進行指
せた時に出入りする熱(可逆熱)に等しい。可逆熱は、ある物質が定められた条件下で存在す
ることに伴うエネルギー変化で、物質の存在条件の違いにもとずいている。電池の作動温
度が環境温度と等しい場合には、この可逆熱を外部に取り出すことはできない。それに対
して dG は、電池つくったとき、アノードとカソードの反応に関与する電子のエネルギー準
位の差として現れるため取り出すことができる最大の仕事となる。
クラーク電池の起電力は温度に依存する。ある特定の温度における起電力の温度係数と特
定の温度における起電力の測定から、式()、式()
、
()で与えられる3つの熱力学的な量、
自由エネルギーの増加量ΔG、エントロピー増加ΔS、エンタルピー増加ΔH を求めること
ができる。
ここで、E は電池の起電力、zは反応に関する電子の数、
は温度係数
である。
3実験
3.1装置および試薬
デジタルマルチメーター、クラーク電池、自動温度調節器、H 型電極容器、恒温水槽、温
度計、ポリエチレンビーカー
3.2実験操作
①水槽に温度調節器をセットして 20 度、30 度、40 度、50 度の水槽を用意した。0 度の水
槽はポリエチレン容器に氷水を入れてつくった。②用意されたクラーク電池をまず、0 度の
水槽に浸し、デジタルマルチメーターにクラーク電池の起電力が正になるように電極に接
続した。③電池の起電力を一定の値が得られるまで、はじめの 5 分間は 30 秒ごとにそれ以
降は 1 分ごとに起電力を測定した。④20 度→30 度→40 度→50 度→40 度→30 度→20 度→
0 度の順で同様の測定をした。⑤各温度で得られた起電力を時間に対してプロットした。⑥
昇温、降温過程、理論過程の温度tに対する起電力をプロットしグラフを作成し、これか
ら 20 度における
の値を求め、この温度でのΔG、ΔS、ΔH を算出する。
4結果
理論
温度 T/K
起電力
E/mV
昇温
温度 T/K
起電力
E/mV
降温
温度 T/K
起電力
E/mV
273.15
293.15
303.15
313.15
323.15
1444.771
1426.73
1414.14
1400.15
1384.76
277.35
294.05
301.35
312.15
319.95
1473.55
1453.68
1444.78
1438.91
1433.99
274.25
293.75
301.45
312.25
319.95
1480.39
1459.86
1451.19
1440.8
1433.99
理論
温度
K
273.15
293.15
303.15
313.15
323.15
起電力 E(V)
1.444771
1.42673
1.41414
1.40015
1.38476
傾き
-0.000747
-0.00112
-0.00131
-0.0015
-0.00169
Δ H kJ/mol
-318.2169
-338.891
-349.628
-360.821
-372.468
ΔS
-144.1556
-216.724
-253.008
-289.292
-325.576
TΔ S
-39.37609
-63.5325
-76.6992
-90.5917
-105.21
ΔG
-278.8408
-275.359
-272.929
-270.229
-267.259
Δ G/Δ H
87.626021
81.25284
78.06263
74.89288
71.75338
K
277.35
294.05
301.35
312.15
319.95
起電力 E(V)
1.47355
1.45368
1.44478
1.43891
1.43399
誤差 (%)
1.991942
1.888935
2.166688
2.768275
3.555129
傾き
-0.001441
-0.00103
-0.00086
-0.00059
-0.0004
Δ H kJ/mol
-361.5384
-339.223
-328.602
-313.377
-301.566
誤差 (%)
13.613816
0.097932
6.013782
13.14879
19.03571
ΔS
-278.1439
-199.5
-165.123
-114.264
-77.532
誤差 (%)
92.947036
7.947138
34.73591
60.50223
76.18619
TΔ S
-77.14321
-58.663
-49.7598
-35.6674
-24.8064
ΔG
-284.3952
-280.56
-278.843
-277.71
-276.76
誤差 (%)
1.991942
1.888935
2.166688
2.768275
3.555129
Δ G/Δ H
78.662511
82.70666
84.85713
88.61837
91.77417
J/K
昇温
温度
降温
温度
K
274.25
293.75
301.45
312.25
319.95
起電力 E(V)
1.48039
1.45986
1.45119
1.4408
1.43399
誤差 (%)
2.4653734
2.322093
2.619967
2.90326
3.555129
傾き
-0.001123
-0.00103
-0.001
-0.00095
-0.00091
Δ H kJ/mol
-345.1745
-340.354
-338.157
-335.238
-333.146
誤差 (%)
8.4714459
0.431723
3.281119
7.090102
10.55721
ΔS
-216.8066
-199.494
-192.658
-183.07
-176.234
誤差 (%)
50.397633
7.949809
23.85271
36.71777
45.86999
TΔ S
-59.4592
-58.6015
-58.0769
-57.1637
-56.3861
ΔG
-285.7153
-281.753
-280.08
-278.074
-276.76
誤差 (%)
2.4653734
2.322093
2.619967
2.90326
3.555129
Δ G/Δ H
82.774161
82.78222
82.82545
82.94834
83.07467
5考察
6参考文献