【無料公開】中央大学通信教育部法学部「知的財産法」合格レポート2011年第1課題第2課題セット

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    資料の原本内容

    第1課題
     (1)特許権と著作権(著作財産権)を比較して、それぞれの権利侵害訴訟において両者の権利範囲(保護範囲)の認定の手法がどのように違うかを説明しなさい。説明する際、必ず「依拠」の語を含むこと。
    (2)なぜ、(1)のような違いが生じたのか説明しなさい。
    第2課題
     特許出願において、特許明細書の提出を義務づけられる理由を説明しなさい。 第1課題
    1.特許権と著作権は、知的創作物に与えられる知的財産権を保護する権利としては同じであるが、特許権が、アイディアという発想そのものを保護の対象にするのに対し、著作権はそのアイディアの表現を保護の対象とする。そして、著作権は学術・美術・音楽・文芸にその範囲を限定している為、特許権と著作権が重複する分野は少ない。以下では、両者の権利範囲の認定の違いを考察する。
    2.特許権侵害の認定
     特許制度においては、特許発明の技術的範囲に属する技術を無断実施すると権利侵害になる。
    まず、特許発明の技術的範囲は、特許請求の範囲の記載に基づいて認定されるのが原則である(特許法70条1項)。
    ただし、特許請求の範囲に記載された用語の意味が不明確であったり、誤記があったりする場合など、特許請求の範囲のみから特許発明の技術的範囲を確定できない場合がある。そのような場合には、明細書の記載及び図面を考慮して、特許請求の範囲に記載された用語の意義を解釈される(70条2項)。また、意見書(50条)などにおいて、特許発明の技術的範囲から意識的に除外された事項も参酌される。意識的除外事項の参酌は禁反言の法理に基づくものである。ほかに、出願時の技術常識や公知技術も参酌される。
    そして、対象技術の各構成要件が、特許請求の範囲に記載されている各構成要件にすべて含まれると、特許発明の技術的範囲に属するものとして特許権侵害になる(文言侵害)。
    これに対して、特許請求の範囲に記載された構成要件と一部異なる部分があっても、対象技術が構成要件と実質的に同一と評価される場合に特許権侵害となる(均等侵害)。
    これは、特許出願時点で将来のあらゆる侵害態様を想定して特許請求の範囲を記載することは困難であり、発明の一部を特許出願後に明らかになった技術に置換するだけで特許権侵害から免れるとすれば、発明の保護、奨励を通じて産業の発達に寄与するという特許法(1条)の目的に反し、衡平の理念にもとるという理由から導かれる論理であり、均等論という。
    均等論が認められるには、①異なる部分が非本質的部分であること、②異なる部分を置換しても発明の目的が達成でき作用効果が同一であること、③異なる部分の置換が当業者にとって容易であること、④対象製品が公知技術から容易に推考できないこと、⑤意識的除外事項等の特段の事情の不存在、という要件を満たす必要がある(最判平成10年2月24日民集52巻1号113頁)。
    3.著作権侵害の認定
     著作権(複製権・翻案権)侵害が成立するためには、権利者に無断で、既存の著作物に依拠して、これと同一もしくは類似性のあるものを再製することが要件となる(最判昭和53年9月7日民集32巻6号1145頁)。
    依拠とは、既存の著作物を参照しながら、その表現を模倣して、自己の作品を作り出す場合がその典型である。反対に、他人の著作物にまったく依拠することなく、偶然類似の著作物を創作した場合には、既存の著作物を知らなかったことに過失がある場合でも、依拠の要件を満たさずに著作権侵害は成立しない。
    類似とは、他人の著作物の創作的表現の類似をいう。著作権法は思想又は感情の創作的表現を保護するものであるから、著作権の保護が及ばない範囲(創作性のない表現部分やアイディアにすぎない部分)についてのみ類似性があっても、著作権侵害は成立しない。
     判例は、「本質的な特徴を直接感得できるか否か」を、類似性の判断基準とする(最判昭和55年3月28日民集34巻3号244頁、最判平成13年6月28日民集55巻4号837頁)。
    4.両者の違い
    著作権の場合は、同じ著作物であっても、他人が別個独立に創作したものには権利の効力は及ばずに、既存の著作物に「依拠」している場合のみ侵害の問題が生じる。ゆえに、著作権は、相対的独占権であるといわれる。複製権についていえば、著作者は「その著作物」を複製する権利を占有する(21条)と規定されており、「その」という限定がされている。これに対し、特許権の場合は、他人がたとえ別個独立に同一のものを発明した場合であっても、権利者のみが特許発明を実施することができ(68条)、他人の実施を止めさせることができる。この様な特許権は絶対的独占権といわれる。
     また、著作権は、著作物の一部であっても、その部分に創作的な表現があれば侵害の対象となりうる。これに対し、特許権は原則として特許請求の範囲に記載された全ての構成要件を含む対象製品にしか侵害が認められず、例外として認められる均等論には厳格な要件が課されている。
    5.違いが生じる理由
    両者の違いは、法律の目的の相違から生じると考える。特許法が発明の保護及び利用による産業の発達を目的としている一方で、著作権は著作権の保護による文化の発展を目的とする。
    そして、特許法は、発明を公開したものに対しその代償として独占権を付与する制度を採用しており、出願・審査・登録という手続を経て権利が発生する。ゆえに、特許には公示の制度があるため、権利侵害の場面に関し、特許権を知らずに実施した場合も、権利侵害が認められるのである。
    一方、著作権は、権利の発生に手続の必要がなく、登録しなくても創作した時点で自動的に権利が発生する。かりに独自に創作した者が、知らないうちに著作権の侵害を問われる可能性があることになると、創作活動に萎縮的効果が生じてしまうから、むしろ文化の発展を阻害してしまう。また、技術とは異なり、多様な作品が生み出される文化の領域では、他人が創作した著作物とたまたま類似する著作物が創作される事態はそう頻繁にはなく、そのような著作物を放置したとしても権利者への影響は小さなものにとどまると考えられる。ゆえに、著作物を知らずに独自に創作をした場合には、侵害にならないとされるのである。
    【参考文献】
    渋谷達紀『知的財産法講義第2版』(有斐閣、2006)178頁以下
    中山信弘『著作権法』(有斐閣、2007)458頁以下
    第2課題
    1.特許明細書とは、出願人が発明の詳細な内容を記載した書類のことである(特許法36条3項)。
     特許法の目的は、発明の保護及び利用を図ることにより、発明を奨励し、もつて産業の発達に寄与することである(1条)。そのため、発明を公開した者には、その報償として特許権という独占権を付与することで保護を図り、その独占権により制約される第三者に対しては発明を公開することで利用の機会を与えることにより、両者間の調和を求めつつ技術の進歩を図っている。
    そこで、本来無体なるものである発明を明確にし、第三者に対して発明の内容を開示すべく、発明の技術的内容を公開するための技術文献及び特許発明の技術的範囲を明示する権利書としての使命を持つ明細書、特許請求の範囲及び必要な図面の提出が義務づけられる(36条2項)のである。
    そして、とりわけ明細書によって発明の詳細が明らかにされる。
    2.そのような明細書の役割を担保すべく、特許法には以下のような明細書に関する規定が設けられている。
    1)明細書は、当業者が実施可能な程度に明確かつ十分に記載しなければならない(36条4項1号・実施可能要件)。
     明細書があっても、その記載が明確になされていないとすれば、発明の公開の意義も失われ、ひいては特許制度の目的も失われる。そこで、この規定により、実質的な発明の公開を担保している。
    また、発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他の当業者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項を記載しなければならない(特許則24条の2・委任省令要件)。
    特許法は審査主義(47条)・書面主義(特許則1条)を採用しており、明細書から発明がどのような技術上の意義を有するかが理解できると、進歩性の判断などが容易になり、審査の円滑化にも資する。
    2)明細書には、出願人が知っている先行技術文献情報を記載しなければならない(36条4項2号)。
    先行技術文献情報が開示されれば、審査官及び第三者にとって従来技術の客観的な理解が容易となり、その結果、その情報に基づいた本願発明の把握及び先行技術調査が容易となる。
    3)特許請求の範囲は、明細書に記載した範囲を超えるものであってはならない(36条6項1号)。
    特許請求の範囲には、特許を受けようとする発明が記載され(36条5項)、特許発明の技術的範囲は、それに基づいて定められるものである(70条1項)。仮に明細書に記載していない発明について特許請求の範囲に記載することになれば、公開していない発明について権利を請求することになるから、明細書には権利を受けようとする発明を記載しておく必要がある。
    4)明細書は出願日から18ヶ月経過した場合や特許権が設定登録された場合などに公開される(64条2項4号、66条3項4号)。
     明細書が公開されることにより、第三者に対する技術文献として機能し、技術の累積的進歩に貢献するのである。そして、重複研究開発や重複出願を防ぐことができる。
    5)特許発明の技術的範囲を定める場合において、特許請求の範囲に記載された用語の意義は、明細書の記載を考慮して解釈される(70条2項)。
    前述のとおり、特許発明の技術的範囲は、特許請求の範囲の記載...

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