私は先日、青山学院大学から帰る途中の道で一人の男性に声をかけられた。年齢は六十代後半くらいであろうか。前歯が数本なく、服装も薄汚れた感じであった。その人は、定期をどこかで落としてしまい家に帰れないのでお金を三百円でいいから貸して欲しいと私に言ってきた。住所を教えてくれればお金は後日、必ず返すとその人は言った。最初は胡散臭いと思ったが、三百円ならいいかと思いお金を出し渡した。その男性は「申し訳ありません、ありがとうございます」と言い立ち去って行った。結局、その男性は私に住所も尋ねることはしなかった。その出来事の後、私は「なぜ、あの人は交番に行ってお金を借りなかったのだろう」「もし、私がお札しか持っていなかったらどうしただろう」などと考えていた。
そしてそこで思い出したのがフランチェスコである。フランチェスコが私の立場であったらどういう行動を取っていただろうか。
フランチェスコは裕福な商人の息子として安穏と青年時代をすごしていた。しかし、あるときフランチェスコは、彼の将来に大きな変化をもたらす出来事と遭遇する。
「アッシジのフランチェスコ」で川下(2004)は次のように述べている...