芥川龍之介と菊池寛における文学観の比較考察です。
「文学レポート」
題:「芥川龍之介と菊池寛における文学観の比較考察」
副題:芥川龍之介の「死」と菊池寛の「生」、対極に位置する二人
1、それぞれの作品のテーマ考察
芥川 龍之介
「地獄変」に関する考察
〈読み〉の多様性を引き出すことに成功した作品であるといえる。
『地獄変』の中心的なプロットとして描かれるのは、大殿と絵師良秀との争いであるが、それを語るのは、大殿の側についている一人の語り手である。芥川自身が「日向」と「影」という言葉を用いて説明しているように、語り手が語る物語は、事実をある一方から恣意的に語ったものでしかない。それはいつも大殿の側に寄り添った形で提示され、真の良秀像は、「影」の部分、つまり語りの裏側の部分にしか表れてこない。良秀に関する客観的な描写がないため、読者はそれを想像で補うしかないのだ。 そのため、良秀についてはこれまでにも様々な〈読み〉が展開されてきている。中でも、彼の死の真相については、作品の主題と関わることもあり、活発な議論が繰り返されてきた。代表的なものを挙げておくと、そこに良秀の人間性(道徳性)を見るものや、芸術家としての積極的な自決(最高傑作を仕上...