自殺論を学ぶ人へのメモ

閲覧数4,534
ダウンロード数48
履歴確認

    • ページ数 : 4ページ
    • 全体公開

    資料紹介

    自殺論を学ぶ人へのメモ
    現在、日本の自殺死亡者数は年間3万前後を推移している。厚生労働省による『人口受動統計特殊報告』が記録していた1950年の自殺死亡者数は年間で16311人、50年の間に自殺者はおよそ2倍にまで増えている。この増加傾向は戦後から続くものであり、増減を繰り返しつつも54年~60年の間に自殺者数2万人を、最近では3万人を超える数が自殺死亡者として表れている。

    資料の原本内容

    年次 自殺者数 1950年 16311 55年 22477 60年 20143 65年 14444 70年 15728 75年 19975 80年 20542 85年 23383 90年 20088 95年 21420 2000年 30251 2003年 32109  現在、日本の自殺死亡者数は年間3万前後を推移している。厚生労働省による『人口受動統計特殊報告』が記録していた1950年の自殺死亡者数は年間で16311人、50年の間に自殺者はおよそ2倍にまで増えている。この増加傾向は戦後から続くものであり、増減を繰り返しつつも54年~60年の間に自殺者数2万人を、最近では3万人を超える数が自殺死亡者として表れている。
     デュルケームはその著書『自殺論』(1897)の中で、自殺者を大きく4つに区分している。自己本位的自殺、集団本位的自殺、アノミー的自殺、宿命的自殺である。では日本では、どのようなタイプの自殺が多いのだろうか。以下は厚生労働省が取りまとめた、警察庁生活安全局地域課による『自殺の概要』からの抜粋である。
    原因・動機 総数 総数 34427 遺書あり 家庭問題 971 健康問題 3890 経済・生活問題 3654 勤務問題 616 男女問題 287 学校問題 63 その他 607 不詳 299 計 10387
     自殺死亡者のうち、最も多いのが「健康問題」である。次いで「経済・生活問題」、「家族問題」となっている。先に述べたようにデュルケームは自殺者を3つに区分しており、「健康問題」「経済・生活問題」はアノミー的自殺、「家族問題」は自己本位的自殺である。すなわち、社会が欲求を煽るにも関わらず、個人として欲求充足は不可能であるという矛盾からの自殺者が、日本では圧倒的に多いのである。
     1955年~65年にかけての大幅な自殺者数の減少について考察してみよう。55年~65年にかけて、自殺死亡者数は1万人以上が減退し、65年には過去50年で最低の自殺者数である14444人を示した。この60年前後という年は、ちょうど高度経済成長期にあたる。1959年には国民健康保険法施行、1960年は所得倍増計画、1961年に国民年金法などの社会保障制度の充実があった。このような時期では、欲求不満を原因とするアノミー的自殺は起こりにくいと考える。高度経済成長期における自殺者数の低下は、欲求を叶えるだけの賃金を国民が得ていたことと、そして社会保障が充実したことにより、将来に安定的なヴィジョンを持てるようになったためだと考える。
     しかし73年のオイルショックから、徐々に自殺者数は上昇している。85年~90年前後におけるバブル景気によって一時期は低下を見せるが、その後1998年に急増することとなる。
    齢階級 男 平成6年 7 8 9 10 11 12 13 14 15 -1994 ('95) ('96) ('97) ('98) ('99) -2000 ('01) ('02) ('03) 総数 23.1 23.4 24.3 26 36.5 36.5 35.2 34.2 35.2 38 10~14歳 1.4 1.1 1.1 0.9 1.8 1.3 1.7 1.2 0.8 1 15~19 7.1 6.6 6.7 6.9 10.8 9.3 8.8 8.4 7.6 8.8 20~24 16.3 15.3 15.3 15.1 21.9 22.8 22 20.1 21.3 21.5 25~29 19.7 20 19 19.6 25.8 26.9 24.4 24.6 23.7 29.2 30~34 19.8 20.2 20.4 21.6 28.8 29.4 28.8 25.9 28.2 32.9 35~39 22.7 21.9 24 25.2 33.3 34.9 33 32.8 31.5 37.2 40~44 25.3 26 26 28.4 37.5 38.9 36.8 39.4 42.3 49 45~49 31.7 31.4 33.1 35 50.4 51.4 49 45.5 49.6 56.3 50~54 39.8 41.7 44 45 65.8 62.1 59.5 57.9 62.3 66 55~59 40.9 41.1 42.7 47 70.2 72.6 72.5 67.1 71 71.1 60~64 36.8 37.1 40.6 43.4 62.1 57.9 58.2 56.7 57.9 58.4 65~69 28.2 28.9 31.9 34.4 53.3 50.4 48.1 47.8 47.4 49.4 70~74 32.2 32.7 33.3 36.4 42.4 40.6 41.2 41.9 36.8 39.5 75~79 45.2 42.5 39.3 42.1 46.9 49.8 39.1 40 39.8 36.9 80~84 56.8 54.4 56 53.4 68.9 62.5 55.4 53.5 48.7 45.5 85~89 75.2 73.1 65.3 74.5 81.4 79.6 71.1 68.1 60 64.5 90~ 90.2 97.5 89.4 83.6 93.9 100 78.8 72.8 77.1 74.8
    厚生労働省『人口受動特殊報告』による男性の自殺率の表から、自殺者は年齢別には80~90歳以上の人が一番多く見られ、45~69歳の人にも同様に多くみられる。この1998年における変動で、最も変化が見られたのは55~59歳の男性である。以下、就業者の割合は平均して激しい上昇傾向を見せた。
     同時に総務省『労働力調査』から、各年度4月の完全失業率を見てみよう。
     失業率は1997年度の3.4%から4.3%に上昇し、その後5.0%台まで上昇している。厚生労働省は『平成11年版労働経済の分析』の中で、「1998年の雇用・失業情勢は急速に深刻さを増した」(第1章 雇用・失業の動向)と1998年における大量失業を認め、その原因を「バブル崩壊後の景気回復局面を経た後1997年3月を景気の山として再び景気後退局面に入り、実質国内総生産(GDP)が戦後初めて5・四半期連続の減少となるなど、第1次石油危機に匹敵するインパクトが長期にわたり続いていること」と述べている。
    以上のことから、自殺率の上昇と完全失業率の上昇、またその原因である景気情勢との間には一定の相互作用があるのではないかと類推する。また自殺を試みる原因としては、景気悪化時に多くなることや、デュルケームの『自殺論』などから考えるに、アノミー的自殺が多いと考える。しかしながらデユルケーム自身は、「自殺率は好景気のときのほうが不景気のときより自殺率は高くなる」(デュルケームの社会学*1)と述べている。ここでいうアノミーというものは、デュルケームにおける欲求充足の不可能ではなく、ロバート・キング・マートンにおける緊張理論であるべきだ。
    *1(デュルケームの社会学)の中において誤文があったので改編。原文は「自殺率は好景気のときのほうが不景気のときのほうが自殺率が高くなる」
    参考
     総務省 http://www.stat.go.jp/index.htm
     厚生労働省 http://www.mhlw.go.jp/index.html
      http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/tokusyu/suicide04/index.html
      http://www2.mhlw.go.jp/info/hakusyo/990702/990702-1-1.htm
    デュルケームの社会学 http://www.hkg.ac.jp/~sawada/kougi/09/09.htm
    自殺論はデュルケームかロバート・K・マートンか

    コメント0件

    コメント追加

    コメントを書込むには会員登録するか、すでに会員の方はログインしてください。