EU統合はそこに暮らす人々、ひいては世界の人々の幸福にどのような貢献を果たすと考えられるか。またそれが持つジレンマとは何か。もっとも基本的な目的と具体的な発現状況を要約して述べよ。
EUにとっての第一のキーワード、それは「国境なき共同体」だろう。しかし、マーストリヒト条約自体に、「EUは、加盟国家間とその国民間に緊密かつ連帯的な仕方で関係を組織していくことを使命とする」とあり、「国家間関係」というコンセプトが存続する。緊密に結ばれた連帯的ヨーロッパをつくるのに、「国家」という単位を簡単に消し去れないところに、統合の青写真をすっきりと描ききれないEUのジレンマが感じられる。
1992年を機にしてEC12カ国が一つの共通の経済市場を構築するという市場統合がほぼ達成された。それに関連して人・者・金・サービスの域内自由移動がほぼ実現されたことになる。
「EU市民」である人々は、EU構成国の領土を自由に移動し居住することができる、という「自由移動」の権利と、自国以外のEU構成国において居住を条件に「選挙権」を認められることになった。しかし、EU市民ではないアフリカ、アジアなどヨーロッパ以外の国...