中央大学法学部通信制課程のレポートです。C評価でした。
いわゆる「胎児性傷害」について論ぜよ。
参考文献 大谷實 『刑法講義各論 新版第2版』 (成文堂)
いわゆる「胎児性傷害」について論ぜよ。
胎児性傷害とは、母体に侵害を加えてその胎児に有害作用を及ぼし、その結果として障害を有する「人」を出生させること、または、その障害のために死に至らしめることをいう。
胎児性傷害が問題となった判例として、最大判昭和63・2・29がある。この事件は、甲工場が人体に有害な物質を水俣湾に排出し、これにより汚染された魚介類を母親が摂取したために胎児性水俣病に罹患した子を出生した事案で、甲に業務上過失傷害罪が成立するかが問題となった。この事件を例にして、胎児性傷害についての問題を考察することにする。
刑法204条は、他人の身体を傷害したものを傷害罪の客体としている。自傷行為は本罪を構成しない。ここで、傷害とは、人の生理的機能に対して障害を加えること、並びに人の身体の外形に対して重要な変更を加えることをいう。この事例の場合、甲の過失行為の時点では、Aは出生しておらず、未だ「人」とはいえないため、傷害罪が成立するかどうか疑問であり、学説は分かれている。以下で諸説を見てみる。
第一の学説は、胎児に対する傷害を認める見解である。これは、一定段階の「胎児」は人で...