各論 地域 原稿

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    資料の原本内容



     近年、日本のソーシャルワーク実践は、「課題別対応による実践」から「地域割による実践」へと変化している。つまり、社会福祉六法等の法的枠組みに基づく課題別あるいは対象者別アプローチから、「地域を基盤とした総合的かつ包括的な実践」、点を含めた面への援助に変化し、「地域」が社会福祉実践の対象領域となったのである。そもそも、「総合的かつ包括的な相談援助」が重視されるようになった背景には何があるのか。①生活課題の多様化により、従来の枠組みでは対応できない課題が出現したことである。時代の変化とともに、人々のニーズも徐々に変化し、今までの制度では対応しきれなくなったのである。②ソーシャルワークが対応すべき課題の深刻化である。虐待問題、金銭問題、対人関係の問題等、現代の抱える問題は極めて深刻なものである。また、これらの問題には複数の要因が隠れている場合もあり、対応が難しくなっている。③地域福祉強力な推進があげられる。住民と行政の協働による地域における「新たな支え合い」の重要性が指摘されたことにより、地域福祉の考え方が後押しされるようになった。④社会福祉基礎構造改革の影響である。社会福祉制度はソーシャルワーク実践の内容に大きな影響を与えた。

     次に、総合的かつ包括的な相談援助における基本的な視点を4つ紹介する。①本人の生活の場で展開する援助である。従来のソーシャルワーク実践は、クライエントが生活圏域を離れ、専門分化された相談機関で援助を受けていた。しかし、総合的かつ包括的な相談援助においては、クライエント本人が生活する場を拠点とし、クライエントとそれを取り巻く環境」を一体的に援助していく特徴がある。②援助対象の拡大である。本人の生活の場で援助を展開するということは、その生活にかかわる人・近隣住民など、援助の対象者が増えるということである。③予防的かつ積極的アプローチである。総合的かつ包括的な相談援助の「総合」には、時間的なものも含まれている。従来の申請主義傾向は、問題が起きた後の援助のため、問題が深刻化し対応が難しくなる場合がある。それを防ぐために、予防的アプローチに力を入れ、より効果的な援助を提供することが大切なのである。④ネットーワークによる連携と協働である。総合的かつ包括的な相談援助は、「~な援助体制」による実践という意味も含まれており、複数の援助機関等がネットワークやチームを作り、連携・協働によって、よりクライエントの問題に効果的に対応できるようになるのである。

     これらの視点を踏まえたうえで、変化しやすいクライエントのニーズに対応を行っていく。では、このような視点で実践を展開するうえで、「地域」をどのようにとらえればよいのか。



     地域を理解するためには、あらゆる角度から地域をみる必要がある。生活空間としての地域、行政単位としてみられる地域、地縁関係等の共同体概念でみられる地域、産業等を中心に規定した地域、帰属意識に支えられた地域等、地域はあらゆる面を持っている。地域の持つ特性を理解する材料として、地域のあらゆる面をみることはとても大切なことである。それにより地域を理解することで、地域全体に視野を広げることができ、その地域に住む人々のニーズを個別ではなく一体的に把握できるようになる。また、地域を一つのまとまりとしてとらえることで、その中に潜む同様のニーズも発見しやすくなる。そして、地域全体で支える体制をつくることができるのである。



     これまでコミュニティワークやコミュニティ・オーガニゼーションにより、住民のニーズに対応するため、さービスを支える基盤整備やネットワーク化、福祉コミュニティ形成など、地域組織化により全体を把握する方法が取られてきた。しかし、全体ばかりに目をやってしまうと、個々の生活課題や問題、住民の生活実態をつかむことが難しくなり、かえって対応が遅れてしまう。そこで、個別支援を行うケースワーク、当事者らの仲間づくりなどを繰り広げるグループワーク、組織をつくり援助を行うコミュニティワークの3つを統合化し援助するコミュニティソーシャルワークが重要となった。地域住民の協力・連帯により、生活課題を発見・把握し、課題を共有することで、地域の問題をその地域で解決することが可能になる。

     そのコミュニティソーシャルワークが果たすべき諸機能について、大橋謙策は10この機能を挙げている。①ニーズキャッチ(問題発見)機能②個別支援・家族全体への支援機能③ICF(国際生活機能分類)の視点を踏まえたケアマネジメントを手段としたコミュニティソーシャルワークの展開及び個別ネットワーク会議の開催④ストレングス・アプローチ、エンパワメント・アプローチ(つまり、自らニーズを表明出来ない人、権利侵害にあっている人やその家族、地域が本来持つ強さや長所に目を向けた援助)による継続的なソーシャルワーク実践の機能⑤インフォーマルケアの開発とその組織化機能⑥個別支援に必要なソーシャルサポートネットワークの組織化と個別事例ごとのネットワーキング機能⑦サービスを利用している人々の組織化とピアサポート活動の促進機能⑧個別問題に代表される地域問題の再発予防及び解決策のシステムづくり機能⑨市町村の地域福祉実践に関するアドミニストレーション機能⑩市町村における地域福祉計画づくり機能 である。

    つまり、これら機能は対処が求められる今日的課題を公私協働、地域主導で統合的に解決していこうとする取り組みそのものと言える。専門職と非専門職とが壁を取り払い、またニーズを抱える者と住民一般が手を結んで協力体制を築き上げることが、地域に長く受け継がれる問題解決力という成果をもたらすと考えられる。



     これらの機能が発揮されるには、それを実体化するための仕組みが必要である。菱沼幹夫はコミュニティソーシャルワークシステムにおける連携三側面と専門職配置の二つの考え方を提示している。まず、連携においては①「保健・医療・福祉等の異領域専門職の連携」が挙げられる。それぞれ専門的立場が異なる者同士のチームプレイを円滑に進めるためには、効果的な役割分担と情報共有が不可欠である。定例会議を開くなどして連絡を密にしておくことが大切である。②「対象属性別専門職の連携」である。複合的なニーズに対応するためには、現在の福祉行政がもつ縦割りの仕組みの克服が課題となる。専門職同士の横断的・統合的な体制作りが意識的になされる必要がある。③「専門職と非専門職の連携」である。情緒的サポートを担っているインフォーマルサポートは、専門職に還られない部分である。まずは、インフォーマルサポートによるアセスメントを丁寧に行い、それだけでは対応できない部分にフォーマルなサービスを補完するべきだとしている。次に、

    専門職の配置の仕方については、①地域を細かく地区割りし、様々な専門職をチームとして配置する形である。担当地域を限定することで、各専門職間の連携が取りやすくなり、地域住民との関係形成も進みやすい。②地域住民のニーズに応じて、各専門職や関係者をつなぐコーディネート役の専門職を案件ごとに配置する形である。これまで発見されなかったケースや、困難児例などの発見やアウトリーチから、社会資源の開発に結び付けていく働きが期待される。

     また、10この機能から、コミュニティソーシャルワークを実践していく上で地域の捉え方の特徴がみられる。①「住民主体と住民の連帯がある」住民が地域の中心となることで、自分たちの抱える生活課題・問題を発見することができる。②「家族をトータル的に把握することにより、生活の場である地域」をとらえることができる。③当事者の組織化などにより、「当事者とその家族が自己実現を目指し参加・活動をすることができる。」④「フォーマル・インフォーマルな社会資源の開発の場」である。⑤「ソーシャル・サポート・ネットワークの形成により、安定した総合的サービスを提供することができる。」⑥「地域福祉計画の策定等により、地域の問題解決が計画的でスムーズに行われるようになる。」

     対象となる地域を理解し、特徴をとらえ、クライエントが抱えている問題・求めていること、クライエントの置かれている状況を全体的に把握することが大切。

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