ターミナルケアについて
医学的な対応では回復の見込みがない状態で、死期が近づいた状態の人に対して行うケアを「終末期ケア」という。この時期のケアには心身の苦痛を緩和する「緩和ケア」、死の瞬間までその人のQOLや人格を尊重する姿勢、家族へのケアといった視点が重要になる。そして、終末期に十分なケアを行うには、体の苦痛はもちろん、自身の死期を悟った人の心の変化を理解しておく必要がある。
自分がもはや回復する見込みがないと知った時、人はまずその事実を打ち消そうとする。しかし、それが否定できない事実とわかると「なぜ自分が」という感情がわき上がり、周囲や世の中に対して怒りを持つようになる。そして、やがて怒っても助かるものではないことに気づき、あきらめ、妥協する。ただ、死が目前に迫っていることには変わりはないため、もう生きることはできないのだという喪失感や、家族や親しい人たち、これまで培ってきたさまざまなものと別れなければならないという絶望感で心は沈んでいく。やがて心身の衰弱に伴い、死を受容していくようになる。
私は、10年近くの闘病の末に若くして亡くなった先輩、そして手話通訳者として関わったろうあ者の中にこうした感情が...