Aは殺意を持って被害者Bに発砲したところ、被害者Bを殺害するに至らず、傷害を負わせたにとどまり、他方で、その予期しなかった第三者であるCに対して死に至らしめた事案である。直接の目的であるB以外に、Cへの致死の結果を生ぜしめた場合の殺人罪の成否について罪責を負うかが争点である。
先ず、Aの錯誤により故意または阻却されるのかどうかについて、行為者が意図した客体についても結果が生じた場合、意図しなかった併発結果に対する故意犯が成立するかという点で検討する。方法の錯誤の問題に関して、判例では、抽象的決定符号説をとり、生じた結果についても故意犯の成立を肯定してきた。本事案は、認識した事実と現実に発生した事実が法定の範囲内で一致すれば足りるとし、予期しなかったCに対する死亡の結果に因果関係があることをその根拠として指摘する。これを前提にして、併発結果に対して因果関係がある限りで故意犯を認めると解し得る。
学説上、一故意犯説では、意図しないCが死亡した場合に、Cに対して故意の殺人罪が成立し、意図したBに対しては故意犯が成立せず過失傷害になるとされる。通説では、行為者が意図した客体だけでなく、意図しな...