生命倫理
第4課題 第1設題
日本人が古来から脈々と受け継ぐ死生観には、仏教が伝来する以前から行われていた招魂の儀式に見られる楽観的な死生観と、仏教の伝来後に広まった無常観によって形成された悲観的な死生観がある。
日本人は古代から森羅万象すべてに魂が宿っていると考え、呪術的な儀式を行うことで功徳を得ようとしていた。「魏志倭人伝」によれば、死者に対しては、再び魂を呼び戻すための招魂の儀式が行われ、招魂が不可能だとわかると死者を清めて埋葬したことが記録されている。死者の霊魂の実在を強く信じ、招魂や鎮魂の儀式によって、生きている者も功徳を受けるというこの時代の死生観は、楽観的な死生観であるといえる。
1997年、日本での臓器移植法案を巡る議論の中に「脳死は人の死であるか否か」という問題があったが、日本で臓器移植がスムーズに導入できなかった背景には、現代でも招魂に由来する思想を日本人が持ち続けていたために起こったともいえる。つまり、魂を呼び戻すという発想では心臓が動いている限りは生きていると見なされやすい。また、招魂という側面からみれば、魂を呼び戻すためには遺体は五体満足でなければならな...