伊勢物語の一部について考察を加えたもの。
在原業平と二条后高子
第三段 ひじき藻では主人公のおとこの、なんということはない恋、しかも歌を見れば、結構激しい恋について短く語られている。
昔、おとこありけり。懸想じける女の下に、ひじきもといふ物をやるとて、
思ひあらば葎の宿に寝もしなむ
菱木物には袖をしつつも
(訳)昔、男がいた。思慕の情を寄せた女の下に「ひじき藻」というものを贈る、それにつけてこんな歌を詠んでやった。
(私をおもってくださる愛情がおありなら、荒れた家でも満足です。あなたと二人、袖を重ね引き敷いて、心温かにそこで共寝しましょう。)
ひじき藻は引敷物(寝具)とかけているが、このような男の積極的な態度に対し相
手の女の対応については一言もない。
ところが、明らかに誰かの注釈と思わせる最後の行が、スキャンダラスな匂いを醸
し出す。
二条の后のまだ帝にも仕うまつり給はで、ただ人におはしましける時のことなり。
(訳)ところで、この女というのは二条の后のことで、后がまだ清和の帝の女御とし
てお仕えなさらず、雲上に上がらぬ並の人でいらした時のことだ。
「二条の后が、まだただ人でおられた時の話」...