芥川龍之介の『鼻』を読み、出典と比較して論ぜよ。
芥川龍之介の『鼻』の出典は、『今昔物語集』の「池尾禅珎内供鼻話第二十」である。この両者を比較しながらその違いを論じていきたい。
両者とも禅智内供という巨大な鼻が悩みの種である僧を主人公としている点では同じであり、鼻を茹でて弟子に踏ませると鼻が小さくなったり、また元に戻ったりする点では同じである。しかし、内供の鼻に対する思いや話の焦点になる部分には大きな違いが見られるのである。
まず、『今昔』の主題は「中童子」(給仕の小僧)が鼻を粥の中に落とした場面である。『今昔』の現代訳は次のようになっている。
「おまえはとんでもない間抜けの大ばか野郎だ。もし、このわしでなく、高貴な方の御鼻を持ち上げている時にこんなことをしでかすか。うつけのばか者め。立ち去れ、こいつめ」と言って追い立てたので、童は物陰に立って行き、「世の中にこんな鼻つきの人がほかにおられるとでもいうのなら、よそに行って鼻を持ち上げることもあろう。ばかなことをおっしゃるお坊様だ」と言ったので、弟子どもはこれを聞き、外に逃げ出して大笑いした。(馬淵和夫・国東文麿・稲垣泰一[校訂・訳]『...