警察官らは覚せい剤取締法違反罪の被疑者Xが宿泊しているホテル客室に対する捜索差押令状の執行のため、まず、ホテル従業員を装い「シーツ交換に来ました。」などと声をかけたが、Xがドアを開けようとしなかったため、ホテルの支配人からマスターキーを借りて、来意を告げることなく、客室のドアをマスターキーで開けて室内に入り、その後直ちに捜索差押令状を呈示して捜索差押を実施した。この捜索差押は適法か。
まず、警察官が、捜索差押状の執行に当たり、客室内にいるXに対してホテル従業員を装い「シーツ交換に来ました。」などと声をかけ、Xに対してその身分を偽って開錠を求めることの適法性が問題となる。
刑訴法110条は、捜索差押の執行方法について「差押状又は捜索状は、処分を受ける者にこれを示さなければならない」と規定している。その趣旨は、捜索差押手続きの公正を保持し、執行を受ける者の利益を尊重することにあると解されることから、令状の事前呈示を求めていると解する。しかし、刑訴法111条1項は「差押状又は捜索状の執行については、錠をはずし、封を開き、その他必要な処分をすることができる。」としている。その趣旨は、罪証隠滅防止にあり、捜索差押を執行する根拠となる。
そこで、令状呈示前に、令状呈示のために必要な措置をとることが「必要な処分」に含まれるのかが要点となる。判例は、例外的に、事前に令状を呈示したのでは証拠隠滅の強度の恐れがある場合、社会通念上相当な手段、方法によるならば、令状呈示前にドアを開けることも現場保存行為の一種にあたり、「必要な処分」として適法であると解されている。(大阪高判平6・4・...