夏目漱石『明暗』の続きとして水村美苗氏が執筆した作品。作品紹介とその感想。
水村美苗『続明暗』を読んで
この作品は、夏目漱石の未完の作品である『明暗』の続きを水村氏が書いたものである。
病み上がりの津田は、妻お延をおいて一人温泉地に療養に行くところから話は始まる。その真の目的はかつて津田を結婚寸前のところで捨てた清子に会うことだった。清子は津田の友人、関と結婚し流産した後、療養のためにその温泉地にいた。そのことを津田は上司の妻、吉川夫人から聞かされたのだ。
果たして津田は清子と会うことが叶った。清子は津田に会っても泰然としており、津田は一種の驕りの感情にとらわれる。つまり清子は口にこそ出さないが、本当は津田を捨てたことを後悔しているのではないかと津田は期待したのだ。津田が過去に清子と過ごした時間を懐かしんでいて、「自分がいるから彼女のこの眼もある」という表現からも明らかで
ある。
実際には恋愛的な進展があったわけでもないのに、津田の期待は少しずつ膨らんでいく。清子は清子で津田を特別視しているわけではないが、そこでの生活を津田に委ねている部分がないわけでもなかった。しかし、ここで気を付けて読まなければいけないのは、清子は関との夫婦生活が特別不和であるわ...