問題の所在
民法上、取消された法律行為は遡及的に無効として取り扱われる(民法121条)。
ここで、取消しと登記の問題を考えるに際して、法律行為に基づき甲から乙に不動産とその登記を移転し、かつ、当該不動産を乙から丙に譲渡した場合において、甲の法律行為に対して取消しが行われた事例を考える。この場合における取消の遡及的無効の効力の取り扱いが問題となる。
すなわち、取消の遡及効によって、不動産を譲り受けた乙は全くの無権利者となる(121条)。そして、登記には公信力が認められていないのだから、その無権利者たる乙から、不動産を譲り受けた丙も無権利者となるのが原則である。
しかし、甲から直接不動産を譲り受けたわけではない丙は、甲の取消事由を知らず、乙の登記を信頼した場合が多いと考えられる。よって、取引の安全の観点から全く丙を保護しないのも妥当しない。そこで、甲と丙をどのように保護するべきかが問題となり、この点についていくつかの判例が出されている。そこで、この点について、以下で論述する。
第2.取消しと登記の問題
1.判例理論(177条適用説)
(1)大判昭和4・2・20判決
昭和4年判決では、...