1.問題の所在
本事例において、手形所持人Cが手形保証人aに対して約束手形の支払を請求できるだろうか。
まず、Cが有する本件約束手形は、A・B間の請負契約の不履行による損害賠償義務を担保するために振出したものであるところ、当該契約は既に履行されているにも関わらず、BがAに返還せずに、C会社に裏書譲渡したものである。
そのため、A・B間で約束手形が振出された原因関係である損害賠償義務が不存在であることを理由に、AはBに対して、人的抗弁を主張して、AはBに対して支払いを拒絶できる。
次に、AがBに対して有する人的抗弁を有するため、手形保証人たるaが当該人的抗弁を援用して、Bへの支払いを拒絶できるかという問題が生じる。
この点について、まず、手形法17条に規定する人的抗弁の制限が適用されるかを検討する。人的抗弁の制限が設けられた趣旨は、手形の裏書も手形債権の譲渡である以上、抗弁が付着されたままで権利移転するのが原則であるが(民法468条2項)、政策的に抗弁の切断を認めることにより、手形の流通を図ることにある。
但し、手形所持人が債務者を害することを知る場合には、人的抗弁の切断は認められない...