ヨーロッパの食文化・ワイン

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    ヨーロッパの食文化・ワイン
    ワインは、ヨーロッパにおける生活や習慣、文化の上で重要な意味を持っているといえる。単にディナーに欠かせないというほど飲まれているだけではなく、「ワインとチーズの結婚(マリアージュ)」といったような食文化に根ざした慣用句も多々生まれ、ヨーロッパを中心としたキリスト教圏内では、宗教的儀式に用いられることも多い。

    では実際に、ヨーロッパ諸国において、ワインに地理的、歴史的、宗教的、食文化的にどのようなエピソードがあり、どのような意味があり、どのような役割があるのだろうか。いくつかの事例を挙げ、以下に論じる。
    ・地理的

    ワインの中には、とある特定の地域でしか生産できない種類のものも存在する。その一つに、貴腐ワインを挙げることができる。貴腐ワインは、貴腐菌(ボトリティス・シネレア)という特殊な菌(カビ)が発生する地域でしか作ることができない。発祥の地はハンガリーのトカイであり、フランスのソーテルヌ、ドイツと共に世界三大産地と呼ばれている。このように、ワインの中でも貴腐ワインに至ってはヨーロッパ圏での生産が多い。フランスを始めとしたヨーロッパ諸国で多く消費されることには、こういった地理的な要素も含まれるのではないだろうか。

    ちなみに貴腐ワインは、ルイ14世やマリア・テレジア王女など王室との繋がりが強く、そのあまりに美しい貴腐ワインの黄金色を見て、金が含まれているのではないかとウィーン大学で分析をさせたという逸話もある。当時の王室の献立表にもたびたび貴腐ワインの名前を見られることから、ヨーロッパの王室に根付いていたと考えられる。
    ・歴史的、宗教的

    ワインは歴史上で、最も古い酒の一つであり、発祥は紀元前6000年頃にメソポタミアのシュメール人によって造られたとされている。少なくとも、ヨーロッパではなくメソポタミアで発祥したことは確実で、紀元前1800年頃のハンムラビ法典には既にワインの記述があり、その後に渡ったであろう古代エジプトのレリーフにも、ワインの造り方が残っている。更にその後、古代オリエント、古代ギリシア、古代ローマと伝わり、ヨーロッパ各国で飲まれるようになったのである。

    フランスやドイツにワイン作りがもたらされた当初、ワインは飲むためだけのものではなく、財産として取引されており、資産家で政治家でもあったキケロの住居にはワイン用のカメが沢山並んでいたと言われている。

    興味深いエピソードの一つに、キスの始まりはこの頃であるという説があり、家の主人が帰ったときに、妻や召使いが隠れて飲んでいないか確認するために口づけしていたのではないか、と考えられている。

    また、ワインの宗教的利用も古くから始まっていたため、ワインの歴史を見ていく上で、ワインの宗教的利用は分けて考えることはできないだろう。中世ヨーロッパの時代から、キリスト教では僧院がブドウ栽培やワイン醸造を主導しはじめ、ワインが儀式には欠かせないものとなっている。これは、イエス・キリストが赤ワインを掲げ、「これは多くの人のために我が契約の血なり」と述べたとされるエピソードや、キリストの流した涙が落ちた所にブドウの木が生えた、という伝説などに起因している為である。

    このように、力を持つキリスト教とワインが密接な関係にあったために、ヨーロッパ圏ではワイン造りが普及していったのである。一方、ワインに関してヨーロッパ諸国よりも先進国だったアラブ諸国では、現在明らかにワインの文化は廃れている。アラブ諸国でワイン文化が発達しなかった理由のひとつは、イスラム教の普及によるところが大きいと考えられる。イスラム教ではワインに限らず飲酒全般を禁止している。そのためワインを飲む文化というものが育たなかったのではないだろうか。
    ・食文化

    ワインがヨーロッパ圏で広く普及していった理由に、他の食材との相性が良かったことが挙げられるのではないだろうか。例えば、ワインと相性のいいチーズに関しては、世界中で似たようなモノが造られていたのだが、中でもヨーロッパ圏におけるチーズは特に種類が豊富で、フランスを含め、周囲の国々で多くつくられてきた。また、赤ワインは肉料理、白ワインは魚料理に合う、と一般に言われるように(もっともワインと料理の相性は食材そのものよりも調理法に左右されることが多い)、ヨーロッパの、特にフランスなどは肉や魚をよく食べる文化を持っている。このように、ワインをより美味しく味わえる環境もまた、ヨーロッパ圏におけるワイン造りの発達を促したのではないだろうか。

    ドイツワインでは、ワイン中に含まれるエクスレ度(糖度、潜在アルコール)によって格付けされるため、基本的に甘口ワインが多い。しかしヴルスト(ソーセージ)の名産地として知られるバイエルン州にかかるフランケン地方では、ヴルストと相性のいい辛口ワインの生産が主流になっている。

    イタリアワインでは、全ての州で独自のワインが作られているため、味や風味などが千差万別である。しかしながら、ピエモンテ州では、イタリア産ブドウ品種ネッビオーロから造られるワインとして有名なバローロと、同様にピエモンテ州で有名なジビエは相性がいいし、トスカーナ州のDOCG認定(原産地認定の格付け)を得ているキアンティワインは、エトルリア文化に端を発するオリーブオイルを使った郷土料理と相性がいい。

    このように、地域の食文化と相性のいいワインがそれぞれ根付いていることが多いのである。おそらく過去にも様々なワインが作られてきたのだろうが、食文化の発達の過程でマリアージュできるワインが選択され、伝えられてきたのではないだろうか。

    また、フランスはイタリアと並んで食を追求している国である。その調理法に酒を使うことも多く、例えばワインに果物を漬けて食べる風習や、カルヴァドスなど高アルコールの酒を食材に落とした上で火をつけ、アルコールを飛ばして匂いをつけるフランベといったように、様々な調理法を生み出している。
    これまで挙げてきた様々な観点から、ワイン造りがヨーロッパ圏で発展してきた文化と密接な関係があり、ときには下地になってきたことは間違いない。食を大切にするというヨーロッパの文化が、結果的にワイン造りの発達を促していったのではないだろうか。

    上記でも挙げたが、ワインは歴史上最も古いワインの一つであるため、ヨーロッパにおいて、最も長い間親しまれてきた酒であることは間違いない。食を大切にする文化がフランス、イタリアをはじめとしたヨーロッパに存在する以上、ワイン造りが発達し、ワインにまつわる歴史や文化が発達したことは、むしろ当然のことであったのではないだろうか。

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