精神保健学
「今後、日本社会において課題となることが予想される 精神保健の問題点とその概要について述べなさい」
精神保健学
「今後、日本社会において課題となることが予想される 精神保健の問題点とその概要について述べなさい」
精神保健は、英語ではメンタルヘルスとなる。昨今、日本語においてもメンタルヘルスという言葉が一般的なものとなりつつある。とくに職場において、メンタルヘルスの問題が注目されるようになってきた。
メンタルヘルスとは、精神面の健康を対象として、精神障害を予防・治療し、精神的健康を保持増進させる諸活動をいう。
昨今、我が国では急激に社会が変化し、企業においては終身雇用や年功序列制度といったものが崩れつつある。また情報技術が発展し、労働環境は大きく変化している。このため、労働者のストレスは増大し、精神的問題に至る者はますます増加しつつある。厚生労働省が実施した調査においても、仕事においてストレスを感じている者の割合は増加傾向にある。労働者の自殺者数も増加の傾向にある。このため、職場における精神保健は大きな課題となっている。
2005年に改正された労働安全衛生法では、事業者は従業員のメンタルヘルスケアを実施するべきであるとされた。69条においては、「事業者は、労働者に対する健康教育及び健康相談その他労働者の健康の保持増進を図るため必要な措置を、継続的かつ計画的に講ずるように努めなければならない」とされた。
2000年には「事業所における労働者の心の健康づくりのための指針」が公表された。これが見直され、2006年には「労働者の心の健康の保持増進のための指針」(新指針)が厚生労働省により公表された。
この指針においては、事業所が計画的に職場のメンタルヘルスを進めること、また専門家と協力・連携しながら従業員、管理監督者、人事・労務担当者がそれぞれの役割を果たすことが重要であるとされている。
新指針において改正されたポイントとしては、以下のとおりである。
①衛生委員会等における調査審議 メンタルヘルスケア推進にあたっては、事業者が労働者の意見を聴きつつ取り組みを行うことが必要であり、産業医等の助言を求めることも必要である。このために、労使、産業医、衛生管理者等で構成される衛生委員会を活用する。衛生委員会において「心の健康づくり計画」を策定する。この計画では、メンタルヘルスケアを積極的に推進すること、心の健康づくりの体制を整備すること、事業所における問題点の把握、メンタルヘルスケアを行うための必要な人材の確保、労働者の健康情報の配慮、実施状況の評価・計画の見直し、などに関する事項が定められる。
②4つのメンタルヘルスケアの推進 セルフケア(従業員自らのもの)、ラインによるケア(管理者による部下に対するもの)、事業場内産業保健スタッフ等によるケア、事業場外資源によるケアの4つのケアが継続的に行われることが重要である。
これらの4つのケアが適切に実施されるよう、具体的な進め方としては以下の4つの支援の活動がある。
①教育研修・情報提供 それぞれの職務に応じたケアの推進に関する教育研修・情報提供が行われなければならない。例えば、セルフケアとしては、従業員がストレスに対しての気づきを得たり、対処するための方法を教育する。また定期的な運動・十分な睡眠・栄養などがストレス抵抗力を増やすといった情報提供をする。ラインによるケアとしては、部下への相談対応が円滑に行われるよう、管理者に対して研修を行う。そうすることで、職場のストレスを全体的に減少させることが可能となる。
②職場環境等の改善 事業者は、職場環境(物理的環境・作業方法・人間関係・職場組織)の改善に取り組まなければならない。
③メンタルヘルス不調への気づきと対応 事業者は、メンタルヘルス不調を訴える者からの相談に対応することのみならず、不調により治療が必要である者を発見して、専門機関に受診させなければならない。そのためには、教育を行い、社外の専門機関とのパイプを作り、早急に対応できる体制を整備していくべきである。
④職場復帰における支援 メンタルヘルスの不調により休業していた労働者に対しては、円滑に職場復帰できるように、支援を行わなければならない。復職支援プログラムを標準的な流れとして決め、これに従って支援することは望ましい。復帰後に相談の機会をもち、勤務状態などを聞き取り、再発予防に努める。職場の上司などの関係者とも話し合い、誤解や処遇条件の問題を解決し、職場への適応を支援していく。
その他の課題として、自殺防止のための対策、セクシャルハラスメント・パワーハラスメントなどの問題への対応も求められる。