設題:芥川龍之介の『鼻』を読み、出典と比較して論ぜよ。
テキスト:日本文学概論、佛教大学通信教育学部
芥川龍之介の『鼻』を読み、出典と比較して論ぜよ。
芥川は、ある時期、王朝ものと呼ばれる平安時代を舞台にした作品を好んで書いたが、その中の多くが「今昔物語集」を典拠としている。「羅生門」は「今昔物語」巻二十九を主とし、同巻三十一を部分的に挿入しているし、「芋粥」は「今昔物語」巻二十六および「宇治拾遺物語」巻一、「運」は「今昔物語」巻十六、「好色」は「今昔物語」巻三十をそれぞれ典拠としている。そして、「鼻」の典拠は、「今昔物語集」の「池尾禅珍内供鼻語第二十」(以下、「今昔物語」は「池尾禅珍内供鼻語第二十」を指す。)である。そこで、本論文では、「鼻」と「今昔物語」とを比較して、論じていくこととする。
まずは、両作品のあらすじをみてみる。「今昔物語」のあらすじはこうである。
「今は昔、池の尾の僧である禅智内供は、真言などをよく習い、熱心に修行していたので、池の尾の寺のお堂も立派で、弟子たちも集まり、大いに栄えていた。
この内供の鼻はずいぶん長く、五六寸ばかりだったので顎よりも垂れて見えた。色は赤紫で、大きなミカンの皮のように粒だっていた。それが痒くて仕方がない。そこで熱いお湯を沸かして、鼻だけ...