筆録説教と範例説教から読み取れる「声」と「文字」の関係について論述せよ。
過去に存在したほとんどすべての社会は、発展のどこかで声の文化から文字の文化への決定的な移行を経験し、一度文字の文化に移行した社会は再び声の文化に戻ることは無いのである。この移行を分水嶺を超える歩みに例えたのが大分水嶺である。
西欧中世において大分水嶺を語るとすれば、それは11世紀の文字文化への移行が始まったとされる時点である。
5世紀から10世紀までの中世初期と、11世紀から15世紀までの中世後期に書かれたものの量を比較すれば、後者は前者のおそらく数千倍、数万倍に達するとされている。この書かれたものの増大には読み書き能力の拡大も伴っていたと推測される。
文書の増加も読み書き能力の拡大も量の問題であるが、量の増加はどこかで質の変化に転じることとなり、文字の増大によって声の文化は変容するのである。
知識や情報が記憶に蓄えられ声によって伝えられていく時代から、文字に記され参照される時代へと変化を遂げる。文字を知る人とは単にアルファベットを知り、読み書きできるだけでなく、ラテン語を理解し、かつ聖職者である人を...