日大通信 民法4(分冊1)の合格レポートです。
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乙が取り得る手段について
契約成立前の契約当事者の一方による一方的な交渉中止行為の法的責任を基礎付けるための理論として「契約締結上の過失」がある。本件の場合、契約は成立・締結してはいないものの、条件等の面談を進めており、契約準備段階にあったといえ、この契約準備段階の契約当事者(ここでは甲)の一方的な契約キャンセル行為は「契約締結上の過失」にあたる。したがって、乙は甲に対し、契約締結上の過失に基づき損害賠償請求できると考えられる。ただしその範囲は、契約の成立を信頼して支出したテナントビルの設計変更等の経費(信頼利益)に限られる。以下にその法的根拠について述べる。
2.契約準備段階の過失
近代私法の基本原理である「契約自由の原則」には、契約を締結するかまたは拒否するかの自由が考慮されているので、甲は任意に契約をキャンセルできるということが原則にある。しかし、契約締結準備段階において、当事者は、権利の行使や義務の履行を信義に従い誠実にこれをなすべきものであるとする信義誠実の原則(民法1条2項)により、相手方と誠実に交渉しなければならない。すなわち、甲や乙が、単なる接触の段階を超えて具体的...