Xは、交際していたA子から別れ話を持ちかけられたことから、A子に恨みの感情を抱くようになり、ある日、A子の頭髪の大部分を根本から切り取った。Xの刑事責任について論じなさい。
『刑法各論』(A07B)<課題1> 教科書執筆者:斎藤 信治
Xは、交際していたA子から別れ話を持ちかけられたことから、A子に恨みの感情を抱くようになり、ある日、A子の頭髪の大部分を根本から切り取った。Xの刑事責任について論じなさい。
1.論点整理
まず、設問(XがA子の頭髪の大部分を根元から切り取ったことに対するXの刑事責任)に対する論点として頭髪の大部分を根元から切り取った「行為」が「傷害の罪(刑法204条、以下法律名がない条文は『刑法』とする)」に該当するのか、それとも「暴行の罪(208条)」に該当するのかにある。
そして、その「行為」に違法性があるか、阻却事由が存在するか、さらにはXに責任能力があり有責かどうかはこの設問からは判断できないが、A子からの別れ話がきっかによりA子に恨みの感情を抱いている事実からXは「罪を犯す意思がない行為は、罰しない。」(38条)に該当するとは理解しがたい。よって、Xの行為は犯罪であるという前提に結論をまとめる。
2.傷害の概念
まず、「傷害」という基本的な意味は、人の「健康状態を悪化させる...