第3章

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    第3章

    プライバシー権の事例
    第3章 プライバシー権の事例
    <この章を読むにあたって>

     この章では、前章で見てきたプライバシー権が、実際にどのような場面で問題になり、また裁判所にどのように考えられてきたかを実際に起きたプライバシー権に関する有名な事例・事件をあげて見ていきたいと思います。

     ここでは、事例の順番は時系列に沿った順番とし、プライバシー権が歴史的過程の中で、どのような方向性の解釈がされてきたのかを辿れるようにしました。また、時代が今日の情報社会に進むことを意識しながら、挙げている事例の一つ一つにどのような意味があったのかを捉えていくことで、次章からの「マイナンバー制度」や「忘れられる権利」とのプライバシー権の関係が分かりやすくなると思います。

     事件内容や争点というように、可能な限り見やすくなるようにまとめているため、空白が多くなることもありますがご了承ください。
    「宴のあと」事件(東京地判昭和39・9・28)
    <事実の概要>

     元外務大臣は、東京都知事選に立候補しました。その妻も献身的に支えましたが落選し、その後夫婦は離婚することになりました。この事を、かねてより政治と恋愛の対立のどに関心があった作家が、中央公論誌とうい雑誌に元妻をモデルとし、女主人公とした小説「宴のあと」を連載執筆しました。この小説の内容は、夫婦の生活を覗き見たような書き方でした。しかも夫の妻に対する暴力など、実際とは異なる内容であり、登場人物の名前も変えてはいつもののこの夫婦だとわかるような書き方をしていました。作家はこの小説を書くにあたり、元妻に同意を得ていました。(しかし、元妻は連載が進み内容が明らかになるにつれて、途中から連載中止を申し入れるようになりました。)一方、元外務大臣には同意を得ていませんでした。元夫婦は不快感を覚え、作家と出版社に出版停止を申し入れましたが、作家はそれに応じず、別の出版社から「宴のあと」を出版しました。東京地裁は、元外務大臣らが主張するプライバシーの侵害を認め、作家らに対し当時としては最高額の80万円の支払いを命じました。その後、作家らが控訴しましたが、元外務大臣が死亡したため、遺族と作家らの間で和解がなされました。
    <裁判の争点>
    プライバシー権が認められるか

    プライバシー侵害の成立基準はなにか

    プライバシーと表現の自由
    プライバシー権について
     そもそもプライバシー権とは、日本国憲法第13条における人権の一つです。本事件の第一判決では「私生活をみだりに公開されない法的保障ないし権利、個人の私的領域に他者を無断で立ち入らせないという自由権的、消極的なものである。」と定められました。また、プライバシー権とは、個人に対する情報が行政機関によって管理されている現代においては、個人が自分に関する情報を自分でコントロールし、自己の情報に対しての閲覧、訂正ないし抹消請求を求めることが必要です。
    プライバシーの侵害の成立基準はなにか
    裁判所は、プライバシーの侵害に対し、法的救済ができるのは、

    公開された内容が私生活の事実または事実らしく受け取られる恐れがある事柄

    一般人の感覚で自分だったら公開してほしくないと思うような事柄

    一般の人々にまだ知られていない事柄

    この公開によって実際本人が不快に思い、不安の念を覚えたことを必要とする
    としました。
    プライバシーの侵害の法的救済をする場合の要件としてこれらの基準はその後、多くの判例で使われています。
    プライバシーと表現の自由
     言論、表現等の自由の保障とプライバシーの保障とは、一般的にどちらかが優先されるという性質のものではなく、言論、表現等は他の法益、利益、信用などを侵害しない限りでその自由が保障されます。このことは、プライバシーの関係とも同じです。
     本判決は我が国においてプライバシー権を初めて取り上げ、「プライバシー権」を最初に認めた判決として注目され、プライバシーの侵害の法的要点を定めました。
    京都府学連事件(最大判昭和44・12・24)
    <事実の概要>

    昭和37年6月21日 京都府学生自治連合が大学管理制度改悪反対、憲法改悪反対といった主張を掲げてデモ行進を行いました

    このデモ行進に参加した大学生であった被告人は自分が所属する大学の学生達とともに先頭列外で行進している最中、本来デモ行進で通ってはいけない道に被告人はデモ隊を知らずに誘導してしまいました

    それによりデモ行進を監視していた京都府警の巡査はデモ集団がデモの規則を守らなかったと判断しこのデモ隊が違法行為をした証拠を残そうとデモ行進を撮影しました それに対し被告人を含めた学生達が怒り「なんで撮ったんや」とこの巡査に抗議し詰め寄りましたがこの撮影は仕事ですので巡査はそれらの抗議を無視するような態度を示したのです。

    それに激怒した被告人はデモの旗竿でこの巡査に暴行を加え、この暴行により巡査は全治一週間の治療は必要な怪我を負い、被告人は公務執行妨害と傷害罪について起訴されました 裁判では一審 二審ともに被告人が有罪となりましたそれに対する上告がこの判決になります
    <争点>

    この裁判で論争となった点は

    Q1:巡査が無許可で被告人を撮影したことにより被告人の肖像権が侵害されたのではないか

    この肖像権は憲法13条で守られているのか

    肖像権が憲法で守られているのなら巡査の写真撮影は憲法違反だったのではないかという点
    また憲法35条や刑事訴訟法により警察官が捜索、押収といったことをするには令状が必要と決められています このことから

    Q2:この捜索、押収には写真の撮影も含まれているから巡査が令状無しかつ無許可で写真を撮影したのは憲法、法律違反ではないかという点です
    このQに対する裁判所の答え

    A:憲法13条によりどんな人にでも、みだりにその容ぼうなど姿 を撮影されない自由が保障されています この権利を肖像権と呼ぶかどうかは別として少なくとも、警察官が、正当な理由もないのに、個人の容ぼう等を撮影することは、憲法一三条の趣旨に反しているため許されないものといわなければなりません

    しかしながら、個人に保障されているこの自由も、国家権力の行使から無制限に保護されるわけでなく、公共の福祉のために必要のある場合には相当の制限を受けることは憲法13条の規定に照らしても明らかです そして犯罪を捜査することは、公共の福祉のため警察に与えられた国家作用の一つであり、警察にはこれを遂行すべき責務があると警察法でもいわれています。このことから警察官が犯罪捜査の必要上写真を撮影する時その撮影対象の中に犯人だけではなく事件に関係ない第三者である個人の容ぼう等が含まれても、これが許される場合があると言わなければなりません

    この巡査の写真撮影が許容される限度について考えると、実際に犯罪が行われている最中もしくはその犯罪が行われて間がないと認められる場合であって、しかもその証拠が残されることがすぐさま必要です。なおかつその撮影が一般的に許容される限度を超えない相当な方法によって行われる時の警察官による写真撮影はその撮影対象の中に犯人の容ぼうなどや犯人の身辺または被写体とされた物件の近くにいたためこれを除外できない状況にある第三者である個人の容ぼうなどが含まれることになっても憲法13条、35条また刑事訴訟法に違反していません。

     したがって、この事件の巡査の写真撮影は憲法35条にも違反していません
    <まとめ 本件の裁判所の判決>

    最高裁判所は本件上告を棄却しました

     理由としては先ほど述べた通りこの事件の巡査の写真撮影は憲法や刑事訴訟法に違反していない正しい職務執行だったと言えるからです

    しかし同時に、肖像権と呼ぶかどうかは別として言葉を濁してはいますが憲法13条によりどんな人にでもみだりにその容ぼうなど姿 を撮影されない自由が保障されていると実質的に肖像権が憲法により保障されることを認めました
    前科照会事件(最判昭和56・4・14)
    <裁判の概要>

    自動車教習所で指導員をしていた人が解雇されて、京都地方裁判所の地位保全仮処分命令(1度解雇されかけたが、裁判所によって中断されている状態)を受けていました。自動車教習所から依頼を受けた弁護士は、弁護士法23条の2に基づいて、所属している弁護士会に対して、その指導員の「前科及び犯罪履歴について」の照会(問い合わせ)を行い、照会の理由としては京都地方裁判所に提出するため、ということでした。続いて、その弁護士会が京都市・中京区の区役所に照会をして、区役所はその社員の情報を教えました。

    照会の結果、その社員の前科について、道路交通法違反11犯、業務上過失障害1犯、暴行1犯があることが判明して、社員の前科を知った自動車教習所は、前科を隠していたことを経歴詐称だとして、解雇したとのことです。

    それを受けて社員は、中京区長が弁護士会に、勝手に前科を教えたことを「プライバシーの侵害」として、京都市を相手取り、損害賠償と謝罪文を求めて訴訟をおこしました。

    1回目の判決では、弁護士会の照会に際して、「京都市が前科も含めて、社員に関する情報を教えたのは違法ではない」となりましたが、2回目の判決では、「前科などの犯罪人名簿は、一般的な身分証明や照会に使うべきではない」となり、社員への慰謝料20万円の請求を認めました。

    対して京都市は、照会したことは弁護士法23条の2第2項に基づいて、以前に述べられた判断を否定して、前科の情報照会と社員の解雇には因果関係は無いと訴えて上告しました。...

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