医療訴訟について、約6000字で論じています
「医療訴訟について」
Ⅰ 医療訴訟の現状
医療訴訟は1990年代前半には500件程度であったが、それ以後2000年代に入って急速に増加した。2004年にはピークの1110件に達し、その後は多少減少してはいるものの、依然件数としては多い傾向が続いている。このような医療訴訟の増加の背景にあるものは何だろうか。
一つに医療技術の進歩が考えられる。高度な医療が実施されるようになるとともに、医療が医師等医療従事者にとっても複雑で難易度の高いものとなり、医療事故の発生リスクが高まっている。また、進歩に伴い、医療に対する市民の期待も大きくなる反面、治療の効果が表れない場合の、失望と医師に対する不信感も大きくなっている。
次に、市民の教育・知識水準が高くなり、また、インターネット等で医療情報も人口に膾炙するようになったことで、患者と医師の知識格差、情報格差が狭まっていることも原因になっている。以前のように、医療の専門家としての医師が、患者に一方的に医療を施すというパターナリズムは、現在は通用しなくなっている。
市民の知識水準の高まりと関連するが、医療崩壊などと称されて社会問題となった、医...