漢文学Ⅲ 孟子
孟子の性善説とは、『孟子』告子上第二章の次の言葉に要約されていると思う。「水は信に東西を分かつことなきも、上下を分かつことなからんや。人性の善なるは、猶水の低きに就くがごときなり。」この言葉の意味は、「なるほど水は東西の方向は区別しないが、高低の区別はしないとはいえない。人間の本性が善におもむくのは、水が低い方に流れるのと同じようなものだ。」というものであって、即ち孟子は人間の本性が善であるのは、水が低いところへ流れるがごとく自然なことである、と述べている。
だが孟子は続いて次のようにも言う。「人、善ならざることあることなく、水、下らざることあることなし。今夫れ水は、搏ちてこれを躍らさば、顙を過ごさしむべく、激してこれを行れば、山に在らしむべし。是れ豈水の性ならんや。その勢い即ち然るなり。人の不善をなさしむべき、その性も亦是くのごときなり。」意味は「人間も善でないことはあるし、水も低い方に流れないこともある。例えば水を撥ね飛ばせば人間の額を越えさせることもできるし、水をせき上げれば山に上げることもできる。だがこれは水の本性であるわけがない。外からの力が加わってそ...