脳梗塞
学習目標:疾患について理解し、援助できるようにする
〇脳梗塞
脳梗塞とは、脳の血管が閉塞することによって酸素や栄養素の供給が途絶え、灌流領域の脳が絵師に陥る病態である。いまや脳梗塞は、死亡原因では一過性脳虚血疾患の約60%を占めている。
●脳梗塞の発症機序
おもな発症機序として、脳血栓症と脳塞栓症の二つがある。
脳血栓は、血栓性動脈硬化が進んだ結果、動脈内に血栓が形成されて、血管を閉塞する場合である。脳塞栓は、心臓内や血管内で形成された血の塊(凝結塊)などが血流にのって脳の動脈に移動し、血管を閉塞する場合である。血流内を移動して閉塞を起こす原因となるものには、血栓のほかに腫瘍塊や脂肪摘などがあり、これらを塞栓あるいは栓子という。これらのほかに、血管に狭窄や閉塞性病変がもともとある患者では、灌流圧が低下するなどして主幹動脈の分水領域に起きる血流不全(血行力学性)による脳梗塞もある。
脳梗塞は一般的に急激に発症する。脳血栓は夜間に多く、徐々に症状が進行する場合が多いが、脳塞栓は昼間に突然発症することが多い。
脳血栓には、主幹動脈におきて大きな梗塞をきたすもの(アテローム血栓性脳梗塞)と、細い動脈におきて小梗塞をきたすもの(ラクナ梗塞)とがあるが、日本ではラクナ梗塞が多い。ラクナ梗塞では、脳幹皮質下に15㎜いかの小さな梗塞がみとめられることが多いが、アテローム血栓性脳梗塞では、主幹動脈にアテローム性動脈硬化による50%以上の狭窄または閉塞がみられる。一方、脳梗塞は心臓内や血管内で形成された血栓が原因となること(心原性脳梗塞)が多いが、手術時の創部からの脂肪のかたまりなどによる場合もある。基礎疾患とし高血圧・糖尿病・脂質異常症を有する患者では、血管のアテローム性動脈硬化がおこりやすく、脳梗塞の発症率も高くなる。脳梗塞のうち、アテローム血栓性脳梗塞が30%程度、ラクナ梗塞と心原性脳梗塞が残りの35%ずつを占めている。
最大の危険因子は高血圧であるが、脂質異常症(高脂血症)・糖尿病・喫煙なども危険因子である。そのほか、心房細動などの不整脈が脳塞栓の原因となる。経口避妊薬などの投与は、若年女性の脳卒中の危険率を上昇させる。脳梗塞は通常60歳以降に発症することが多いので、若年者の発症においてはとくにこれらの危険因子を精査し、検査を行わなくてはならない。
●症状
脳梗塞の症状は、梗塞をおこした脳の部位や梗塞巣の大きさによっては異なる。脳血栓の病変部位は一般には、大脳皮質よりも白質や内包など脳の深部が多い。そのうち運動神経線維が通過する部位に梗塞がおきれば病変と反対側の上下肢や顔面の運動麻痺(片麻痺)が生じる。また高温期間を支配する運動神経の領域におきれば、呂律がまわりにくくなる(構音障害)。感覚神経がおかされれば、反対の半身に感覚障害やしびれがおこる。運動麻痺や感覚障害は、四肢の近位より遠位におきやすいのが特徴である。
他方、脳塞栓は大脳皮質にも病変がおきやすく、大脳皮質の局在機能の障害による症状が出現する。例えば、優位側脳半球の言語野に病変があれば、聴覚や構語機能が保たれていれも、言葉を理解したり話すことができない状態(失語)となる。側頭葉のウェルニッケ野が障害されると、言葉の理解が障害され、しゃべることはできても話している内容が理解できない感覚性失語を、前頭葉のブローカ野に障害がおこると、自発語が出にくくなり、言葉が流暢に話せなくなるが、他人の話している言葉はよく理解できる運動性失語をおこす。運動・感覚の両言語野が障害されると、発語も言語の理解も、復唱もできない全失語になる。また左半球の前頭葉や頭頂葉が障害されると、指示された動作を言葉として理解できても、どのようにしてすればいいかわからなくなる(失行)。後頭葉など資格にかかわる皮質が障害されると、反対側の同名半盲を呈する。聴覚・視覚・触覚の連合野が障害されると、音や視覚・触覚の刺激が入っても、それがなんであるかわからない状態(失認)になる。
脳梗塞は、病変の生じる場所によって症状がはっきりしないことがある。これを無症候性脳梗塞という。
参考文献
1)竹村信彦;系統看護学講座専門分野Ⅱ成人看護学⑦脳・神経,医学書院,第14版,2017