コロナ禍におけるマスクの輸出制限措置の影響について論じたレポートです。
はじめに
2020年初頭、中国・武漢より広まった新型コロナウイルスは、世界貿易に暗い影を落とした。各国政府が感染拡大策として移動制限やロックダウンを実施した結果、工場の操業停止や物流の寸断などサプライチェーンは甚大な被害を受け、外務省の報告(2021年)では、2020年の世界の物品貿易量は前年比5.3%減となった。各国政府はワクチンの生産、配布による規制緩和で貿易促進を図ったものの、外務省(2021年)によると、世界市場の消費意欲の減耗による輸出額の縮小が響き、同年のGDP成長率が-3.8%となるなど、世界経済も大きな打撃を受けている。
このような中、諸外国は2020年、新型コロナとの闘いに不可欠なマスクや医療用防護服といった医療関連物資の輸出を禁止、制限する措置(輸出制限措置)を発動した。輸出関税や輸入割当制限と同様の効果を持つとされる医療関連物資の輸出制限措置は、どのような影響を輸出、輸入両国市場に与えたのか。
第1章は医療関連物資の輸出制限措置の背景と輸出制限措置の影響を調べる社会的意義、第2章は輸出制限措置の影響分析と先行研究をもとにした輸出制限措置の仮説、第3章はマスク...