2022年度までのレポート課題によるものです。加藤周一氏の『日本文学史序説上』を基礎とし、大陸文化の「日本化」された結果が万葉集と古今集にどのように表れているか考察しています。
一.日本文学史上の境界点
『日本文学史序説上』において、加藤周一氏は七九四年の平安遷都から一〇世紀初頭にかけてのおよそ百年間がそれまでに輸入された大陸文化の「日本化」の時期であると指摘した。たしかに、この時代にはかな文学の成立、律令制から摂関制への政治体制の移行、空海と最澄による真言宗・天台宗の開派など、それまで中国大陸から輸入した文化や制度をそのまま日本で用いていた飛鳥時代や奈良時代の文化と比較して、それらを消化し、日本独自のものとしての枠組みが生まれた時代だといえる。これらのような「日本化」という現象は文学においてどのような影響をもたらしたか。「日本化」の定着以前の作品である『万葉集』と定着以降の作品である『古今和歌集』を比較して考える。
二.『万葉集』について
『万葉集』は、その正確な時期は不明であるものの、そこに収録された歌はおよそ七世紀前半から七五九年までのものとされている。この年代は加藤氏が指摘するところの「日本化」以前の年代である。『万葉集』に収録された歌は「雑歌」「相聞」「挽歌」の三種類に分けられるが、本稿において着目するのは男女間の恋を題材とした「相聞」である。
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