S5551 倫理学概論 第1設題
カントの『実践理性批判』について,「定言命法」の特質を踏まえ,自分の意見を述べよ。
はじめに
現代の世俗的な社会でカントの倫理学は大きな意味を持つ。カントは批判哲学を提唱し,
認識論における「コペルニクス的転回」をもたらした。これは,主観が従うことで認識が
成立するとされていたのを,むしろ主観における先天的形式が対象の認識を成立させると
唱えたのである。カントの批判哲学を象徴する著書には「純粋理性批判」,「実践理性批判」,
「判断力批判」があり,これらは三大批判書と呼ばれ,人間の認識能力を基に,道徳や自
由などの個人の心中の問題を,芸術や美学の観点から総合的な判断によって統一するとい
った構成になっている。
ここでは,人間の内面の動き,つまり,道徳や自由といった心の問題をテーマとした「実
践理論批判」について,その中で提唱されている「定言命法」の特質を踏まえながら,カ
ント倫理学を考察していく。
1.実践理性批判
カントの実践理性は,当時の道徳哲学への批判として生まれたものである。道徳哲学は,
「人間の使命は何かという問題に対して,人間はそ...