東京福祉大学の臨床心理学概論のレポートです。
科目名:臨床心理学概論 科目コード:3580
設題:心理療法の代表的な理論について述べよ
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心理療法の代表的な理論について述べよ。
クライエントや患者が困っていることや悩んでいることを専門家との会話や対話を通して解決または自己受容あるいは自己変容していくものを心理療法と言い、代表的なものとして、精神分析、行動療法および認知行動療法、クライエント中心療法が挙げられる。これらの理論は、それぞれ異なる背景や考え方を持ち、適応となる対象者や援助技法も異なっている。本稿では、それぞれの心理療法について詳しく述べていく。
まず精神分析とは、オーストリアの医師フロイトによって神経症を治療する方法と理論として創設され、その後の心理療法の伝統的な技法となったもので、人のふるまいが無意識に左右されるという考えを中心としている。フロイトは意識と無意識の間に自我があり、自我が意識と無意識を調整していると考え、心の機能をエス、自我、超自我の3つに分類し、このバランスが崩れると精神疾患を引き起こすと主張した。エスは、幼児期から抑圧されてきたものが蓄積されている領域で、欲望や原始的な衝動のもととなる。自我は、幼少期の生活や受けた教育によって形成される欲求を抑制し、実際の行動とのバランスをとる。超自我は、幼少期に身につけた道徳がもとになり形成された良心のことで、無意識を抑圧する役割を果たす。
精神分析では、無意識の欲求や抑圧された感情が心の問題の原因であると考えるため、治療を通じて無意識の内容を意識化し、適切に処理することが重要とされる。精神分析の対象者は通常、神経症やパーソナリティー障害など心因性の疾患であるが、精神疾患がない場合でも、不安や行き詰まりを感じている人や、小説家や芸術家のような創造的な仕事をしている人など、自分の内面を深く知りたい人にも適用が可能な場合がある。精神分析の主な援助技法として自由連想法が挙げられ、何も考えずに思いついたことを素直に発言していく。その中で、無意識のうちに治療を妨げる言動をとる抵抗、両親に対する過去の感情を精神分析家に対して抱く転移といった現象が見られ、それをもとに無意識下で起きていることについて仮説を立て、治療を受ける人に伝える。治療を受ける人は、その解釈を聞き、自分の無意識下で起こっていることを直視し受け入れることで、起こっていた問題の本質を理解し、普段の生活においても考え方の変化などが起きる。
行動療法は、クライエントが抱えている「行動」の問題に焦点を当てた心理療法である。不適切な行動を減らしたり、現状より適切な行動を身につけたりすることで、問題の改善を目指す。この行動療法を発展させたものを認知行動療法と言い、行動の変容や消去だけでなく、予期、判断、信念、価値観などについても対象としている。クライエントに何が問題なのか記述してもらい、獲得可能な行動群に切り分け、分析家が支援し、クライエントの活動を評価することで治療していく。
行動療法では、環境と個人の行動の関係性から問題を理解し、「問題となっている行動が続く仕組み」を捉え、問題となっている行動パターンの代わりとなる適応的な行動パターンを増やしたり、適応的な行動を学んでいくことで問題解決を目指す。これに対し、認知行動療法は頭がどのような考え方や解釈をしているかに着目することで、問題を捉え、認知のパターンを修正することを通して問題を解決する。主な対象者としては、乳幼児や障害者、うつや不安を抱えた人たちであるが、近年は特別な症状がなくとも日常生活で活躍する場合もある。
行動療法および認知行動療法の援助技法としては、行動活性化、認知再構成法、系統的脱感作などがある。人は落ち込んでいる時はポジティブな体験が得られるような行動の割合が少なくなってしまうとされている。そこで行動活性化では、気分と行動の関係性に着目し、抑うつ的な行動よりも健康的な行動を強化して気分の問題を改善することを目指す。また認知再構成法では、自分を苦しめているような過度にネガティブな考えを振り返り、別の考えを取り入れていくことで、バランスのとれた考え方を身につける、系統的脱感作では、不安を感じる状況に対してリラックスした状態で徐々に慣れることで恐怖反応を弱めることを目的としている。
クライエント中心療法とはカール・ロジャースが創始した心理療法の一つで、分析家の態度や姿勢を重視し、クライエントを信じ、成長を目指す技法である。クライエント中心療法は自己一致・共感的理解・無条件の肯定的な関心の3つが重要と考えられている。自己一致とは現実の自分を受け入れることであり、分析家自身が自己一致してない状態だと、クライエントの自然と湧き上がるさまざまな感情に気づき、それらを否定せず十分に受け入れることができなくなる。共感的理解とはクライエントを理解するために、自分があたかもその人であるような感覚を得るように努力するという考え方である。無条件の肯定的な関心とはクライエントの体験や体験に対する感情に対して、分析家自身の価値観やそれによる評価することはせず、肯定的に受け入れて受容していくことである。
この療法の対象者は自己理解を深めたい、感情をもっと表現できるようになりたい、または自分自身の問題に対するアプローチを見つけたいと考えている人であり、特に、自己肯定感が低く、他人とのコミュニケーションに不安を感じている人や、過去のトラウマや人間関係の問題に悩んでいる人に有効である。主な援助技法には、自己一致・共感的理解・無条件の肯定的な関心の3つに基づいた感情の反映、繰り返し、自己開示などがある。
ここまで、代表的な3つの心理療法について述べてきた。精神分析は無意識の探求を重視し、行動療法および認知行動療法は行動や認知の修正を目指し、クライエント中心療法は自己成長を促すことを目的とする。それぞれの心理療法には特定の適応対象があり、援助技法も異なるため、クライエントのニーズに応じた適切なアプローチが求められる。
野島一彦『臨床心理学への招待』ミネルヴァ書房2024年
C.G.ユング 『自我と無意識』第三文明社1995年
祖父江 典人 『公認心理師のための精神分析入門: 保健医療、福祉、教育、司法・犯罪、産業・労働領域での臨床実践』誠信書房 2019年
三田村 仰『はじめてまなぶ行動療法』金剛出版2017年
佐治 守夫 『ロジャーズ クライエント中心療法 カウンセリングの核心を学ぶ 』 有斐閣2011年