東京福祉大学の臨床心理学概論のレポートです。
科目名:臨床心理学概論 科目コード:3580
設題:心理療法の成り立ちについて述べよ
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心理療法の成り立ちについて述べよ。
人間は古来より、精神的な苦痛や心の病に対してさまざまな方法で対処してきた。古代では呪術や宗教的な儀式を通じて治療が試みられ、中世においては悪霊祓いや修道院での看護が中心となった。しかし、科学の発展とともに、人間の心の働きを理解し、それを体系的に治療する方法が模索されるようになった。こうした流れの中で、クライエントや患者が困っていることや悩んでいることを専門家との会話や対話を通して解決または自己受容あるいは自己変容していく心理療法が誕生し、発展していくこととなった。
心理療法の起源は、古代の宗教的・呪術的な治療にまで遡ることができる。古代ギリシャでは、ヒポクラテスが人間の理性の座は脳であると考え、情動や行動が影響を受けるのは血液、粘液、黄胆汁、黒胆汁の4種類の体液の影響であるとする「四体液説」を唱え、精神疾患を身体的な要因と関連付けた。一方で、中世ヨーロッパでは精神障害者が隔離され手錠、足枷、鎖などで拘束される非人道的な扱いを受けており、魔女狩りでも多くが犠牲となった。
近代に入って精神障害は宗教的な救済や迫害の対象としてではなく、治療を求める患者として処遇しなければならないと言う思想が広がり始める。フィリップ・ピネルは精神科で鎖につながれていた患者を解放し、精神疾患患者に対して人道的な治療を行うべきであると主張した。20世紀になると、心理療法は科学的な枠組みの中で確立されていく。特に、精神分析、行動主義、人間性心理学の三つの潮流が大きな影響を与え、それぞれ異なる視点から心理療法を発展させた。
精神分析とはオーストリアの医師フロイトによって神経症を治療する方法と理論として創始され、その後の心理療法の伝統的な技法となったもので、人のふるまいが無意識に左右されるという考えを中心としている。1890年頃フロイトは、シャルコーらに催眠について学んでいたが、催眠療法には限界があると考え、心に浮かんだ内容やイメージを思うままに語るという「自由連立法」を確立し、これが精神分析の基礎となった。そして著書「ヒステリー研究」で自由連想法の基礎的概念が紹介され、意図しないミス、他人に苛立つ、原因不明の体の不調といった症状や行動は「無意識」が関係していると考えた。そこでフロイトは心を局所論、構造論で説明し、無意識を紐解くことで患者の心を理解しようとした。局所論とは、心は、意識・前意識・無意識の3層から成り立つとするもので、構造論は、心の役割は、イド・自我・超自我に分かれるとするものである。
その後フロイトの娘であるアンナ・フロイトは、児童分析のスタイルを確立し、葛藤や苦痛を感じた際、自我が傷付かないように守る自我の防衛機制について整理することで、自我心理学という学派を形成した。さらに、メラニー・クラインはフロイトの精神分析理論を発展させ、対象関係論の礎を築いた。クラインは特に幼児の心の発達に着目し、遊戯療法を用いて子どもの無意識の世界を探る方法を確立し、彼女の理論は精神分析を理解する上で欠かせないものとなった。
行動主義は、19世紀末から20世紀初頭にかけて、心理学をより科学的な学問として確立しようとする流れの中で誕生した。アメリカの心理学者ワトソンは、これまで意識と主観を中心に研究が行われていた心理学を客観的に観察できる「行動」を研究対象にすべきと主張し、内面の意識や無意識の探求を否定した。ワトソンの考えは、パブロフによる古典的条件づけの実験に影響を受けており、行動は刺激と反応の関係によって説明できると考えた。
古典的条件づけとは、刺激と反応の結びつきを通じて新たな反応が獲得される心理学の基本的な原理である。これを初めて実証的に示したのが、19世紀のロシアの生理学者パブロフである。彼は、犬を対象に行った実験において、食べ物とともに鳴らすメトロノームの音を結びつけることで、犬がメトロノームの音だけで唾液を分泌するようになる現象を観察した。これにより、本来は無関係であったベルの音が新たな刺激となり、唾液分泌が刺激に連動して起こるようになった。
パブロフは何の経験も条件もなく生じる反射を無条件反射、これを誘発する刺激を無条件刺激と呼び、この逆のものを条件反射、条件刺激と呼んだ。この条件刺激と無条件刺激の対提示操作そのものを古典的条件づけでは、強化と名付け強化回数が増せば、条件反射量が増し、その出現までの時間は短縮されるということが分かった。また私たちの日常生活の中にも、梅干しを見るとよだれが出るなど自然に古典的条件づけ操作が行われており、パブロフはこれを自然条件反射と呼んだ。
こうした精神分析と行動主義が中心であった時にマズローによって提唱されたのが人間性心理学である。精神分析は無意識に焦点を当て、行動主義は環境刺激に重点を置いていたが、人間性心理学は人間の健康的な側面に注目をした。人間性心理学の基本的な考え方は、人間は、食欲などの単純な欲求を持つだけではなく、成長に向かおうとする成長動機も持っているというものである。しかし、自らを高め自己実現に向かうといった欲求は高次のものと位置づけられており、食欲などの生理的欲求が満たされ、安全な生活が確保されないと、高次の目標を追求するという段階に到達できないとして、マズローは有名な欲求階層説を提唱した。
ここまで、心理療法の成り立ちについて述べてきた。心理療法は、古代の呪術的な治療から始まり、科学的な研究を経て、20世紀には精神分析・行動主義・人間性心理学という三つの主要な潮流が生まれた。精神分析は無意識の探求を目的とし、行動主義は客観的に観察できる「行動」に着目し、人間性心理学は人間の健康的な側面に焦点を置いたものである。それぞれのアプローチは異なるものだが、現代の心理療法にも役立つものであり、今後もこれらを基礎として、さらなる発展を続けるはずである。
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