中央大学通信教育課程 民事訴訟法 第2課題 (2012年度) D評価合格レポート
民事訴訟法 第3課題 証人の義務と証言拒絶権
1、民事訴訟における証人義務
わが国の裁判権に服する者はすべて証人として尋問を受ける公法上の義務がある(190条)。証人義務には、証人として適式な呼出しを受けた者が証拠調べ期日に出頭する義務である出頭義務、及び、証言の真実性を担保するため証人が裁判所の面前で良心に従って真実を述べる旨を宣誓する義務である宣誓義務(201条1項)、また、尋問された事項について何事も隠さず、付け加えることもなく真実を証言する義務である供述義務(規112条4項)の3つから構成されている。これら3つの義務に正当な理由なく違反した場合には過料や罰金、または勾引による制裁および義務の強制が科され(192-194)、また、宣誓をさせるべき証人を宣誓させずに行った証人尋問は原則として違法であり、宣誓証人が虚偽の証言をした場合は偽証罪に問われると定められている(刑法169条)。
2、証言拒絶権
ただし、証人義務がある者についても尋問事項の内容に応じて一定の場合に証言拒絶権が各法令に列挙されており、そこに規定された要件を満たせば例外的に証言を拒むことができる。証言拒絶権が認められるのは以下の4つの場合である。
まず、証人や第三者の刑事罰・名誉毀損を理由とする証言拒絶権とは、供述によって自己または親族などの第三者が刑事訴追または処罰を受けるおそれがある事項、または名誉を害すべき事項について尋問を受ける場合について、憲法38条が定める自己負罪供述強要禁止と類似の趣旨に基づく基本的人権の保障や憲法13条が定める人格権に基づき社会的名誉を保持するために証言拒絶権が認められている(196条)。
次に、公務員や国会議員などの者を証人として「職務上の秘密」について尋問する場合には、その秘密は公共・国家の秘密であり厳格な保護が要請されるため(国公100条)、裁判所が当該監督官庁の承認を得ない限り証言を拒絶できると定められている(197条1項1号)。
また、医師・弁護士・宗教家など、またはこれらの職あった者が職務上知り得た事実で、かつ法令または慣習法によって黙秘義務を負う事項については、これらの専門職従事者を信頼して秘密を打ち明けた者の信頼を保護するため証言拒絶権が認められる(197条1項2号)。
また、技術または職業上の秘密を証言により公開することによって、自己または第三者が有する技術の価値が損なわれ、または職業の維持遂行が危殆に陥ることを防ぐ目的で、その情報についての支配権が司法への協力義務に優越すると判断される際に証人の供述義務は否定される(197条1項3号)。
3、報道機関の取材源の証言拒絶権は認められるか
上記のように証言拒絶権とは、真実発見の要請を犠牲にしてでも一定の社会的価値を守ることが望ましいと認められる場合に、供述義務を免除することを趣旨とする制度である。そこで、本問の事案のように報道機関の取材源についての証言は197条1項3号にいう「職業の秘密」として拒絶することができるかが問題となる。
報道機関による報道とは民主主義社会において重要な判断の資料を提供することで国民の知る権利に奉仕するものであり、表現の自由を保障する憲法21条に照らし、報道が正しい内容を持つために報道の自由と共に取材の自由は十分尊重に値するべきものである。(そのため報道機関は197条1項3号の保護する社会的価値を有する職業であるといえる。)また、取材源がみだりに公開されれば報道関係者と取材源となる者との信頼関係が損なわれてしまい自由で円滑な取材活動が妨げられ、報道機関の業務に深刻な影響を与えることとなる。従って、取材源となった者が秘密の開示を承諾している場合や当該取材の方法が違法なものであった場合などを除いて、
報道機関の取材源については197条1項3号の証言拒絶権を認めることが妥当である。本問と同様の事例につき最高裁の判例も同旨である。(最判平18・10・3民集60・8・2647)
4、本問の事例における証言拒絶権の判断基準
しかし、民事訴訟においては裁判の公正が強く要請され、すべての職業秘密が常に証言拒絶権の対象となるべきではない。証言拒絶権の成否の判断基準としては、当該取材の内容、性質、その持つ社会的な意義・価値、当該取材の態様、将来における同種の取材活動が妨げられることによって生じる不利益の内容や程度などと、当該民事事件の内容、性質、当該民事事件において当該証言を必要とする程度、代替証拠の有無などの諸事情を比較衡量して決すべきである。
すなわち、民事訴訟の目的である真実発見の要請とその秘密の要保護性及び職業遂行困難性を比較衡量し、訴訟の公正さを犠牲にしても秘匿を認めるべきと判断されれば197条1項3号の拡大解釈により当該取材源につき証言を拒絶できるのである。
■松本・上野『民事訴訟法』 弘文堂 2010年
■大村・二羽『民事訴訟法』 中央大通教部 2012年
■伊藤眞・高橋・高田『民事訴訟法判例百選 第3版』 有斐閣 2003年