『社会調査の基礎』
「社会調査における倫理と個人情報保護について述べなさい」
『社会調査の基礎』
「社会調査における倫理と個人情報保護について述べなさい」
社会調査(social research)とは、人々の意識や行動などの実態をとらえるための調査である。一定の問題意識をもち、作業仮説に基づいて調査を行うことが基本である。社会調査は学術的なものであり、調査を科学的に精密に実施する努力ができるだけ払われねばならない。
社会調査には、社会的プログラムを作り社会の改善を目指す実践と、社会の諸側面の科学的探求という2つの側面がある。社会福祉学の分野での社会調査は、社会学におけるものと比較すると、前者の側面が強調される場合が多いと感じる。これは、社会福祉学が実践(業務)に根ざした学問であることに大きく起因しているためではないかと思う。
社会調査を実施するうえで社会からデータをとる方法論としては、調査、実験、観察など各種ある。社会調査の種類は、量的調査(統計的社会調査)と質的調査(事例的社会調査)の2つに大別される。
社会調査実施の利点は、以下のようなものである。①結果を活用し、効果的な意思決定・方針・計画の立案ができる。②現在や将来の状況を把握し、それを望ましい方向へコントロールできる。③現実世界把握のための一助となる。④専門職として認識の幅を広げ、慣習や常識などを打ち破り視野が広がる。
同時に社会調査には欠点もある。それは、調査による現実の操作となりうるというということであり、予言の自己成就現象やアナウンスメント効果(バンドワゴン、アンダードッグ効果)といったものである。ただし、社会科学であるがゆえに、この効果の度合いを数量的に測定することは難しい。
社会調査は個人のプライバシーに関わるものであるため、回答者の個人情報を保護し、人権に配慮することが極めて重要である。調査前には、対象者に対して調査内容を説明した上で、丁寧に協力依頼をすることが必要である。調査後には、個人情報の的確な廃棄などを行わなくてはならない。
社会調査士資格認定機構による「社会調査倫理綱領」が存在する。それは、10条におよぶ内容であり、第1条では、「社会調査は、常に科学的な手続きにのっとり、客観的に実施されなければならない。調査者は、絶えず調査技術や作業の水準の向上に努めなければならない。」と定められている。
社会調査における倫理事項としては、以下のようにまとめることができる。
①調査参加者の自発的参加…対象者・参加者の自由意志による参加、拒否の自由、調査拒否による不利益を蒙らないことを保障する。調査は、対象者に負担、面倒をかけ、時間を取らせるものである。それゆえに調査への参加協力は自発的なものであるべきである。
②インフォームド・コンセント…対象者に対した説明のうえでの同意が必要である。
③匿名と秘密保持…調査は常に個人のプライバシーや人権の侵害の危険性を内包している。調査員の守秘義務の徹底が重要である。
④結果分析と報告…分析した結果により、現実を誤認する危険性がある。また、結果とその報告の一人歩きの危険性もある。社会調査で明らかになった事実が、現実そのものとはかぎらないことは意識しなければならない。
個人情報の保護に対する関心の高まりなどを背景として、社会調査の実施が次第に困難になってきている。このため、倫理的規範を明示し、適正な活動であることを主張する必要が高まっている。