憲法論文答案練習 人権各論
~取材の自由と国家機密~
【問題】
国家公務員の職務上知ることのできた秘密の漏示行為に対する「そそのかし」等を禁止した国家公務員法111条と国家公務員に対する取材行為との関係について考えを述べよ。
【考え方】
報道機関による公務員に対する取材行為は、当然、秘密の漏示行為に対する「そそのかし」等をその内容とするものになる。そこで、取材の自由との関係で、かかる「そそのかし」等を禁じた国家公務員法111条の合憲性が問題となるが、以下の見解に分かれる。
1)国公法111条は、立法趣旨が不分明で構成要件も不明確であり、憲法31条等に違反し、違憲であるとする見解
2)国公法111条が、取材活動に適用されると政府情報に対する取材活動がほとんど不可能となり政府情報に対する取材の自由ひいては報道の自由が無に帰することを根拠として、取材活動に適用される範囲で、同条は違憲であるとする見解
3)違憲説の基本的見解を踏まえつつ、取材対象の自由な意思決定を不可能にするような不適正な取材活動は容認できないことを根拠として、何らかの形で適正でない取材活動に限定して、国公法111条が適用されることを認める見解
【答案例】
国家公務員法100条1項は、国家公務員は、「職務上知ることのできた秘密」を漏らしてはならないと定め、国家公務員法111条は、かかる漏示行為の「そそのかし」行為を処罰の対象としている。他方、報道機関による公務員に対する取材行為というのは、当然、かかる「そそのかし」等をその内容とするものになる。そこで、取材の自由との関係で国家公務員法111条の合憲性が問題となる。
思うに、国家公務員法111条の立法目的が、国家機密の保護にあることは明らかであるし、実際に禁止される行為も、一定の方法による秘密漏示に対する教唆行為であるから、構成要件もそれほど不明確であるとはいえない。したがって、同法条自体が31条等に反して、違憲であるということはできない。
しかしながら、取材活動全般に対して同法条の適用があるとすると、政府情報に対する取材活動はきわめて重大な制約を被ることになってしまい、政府情報に対する取材の自由ひいては報道の自由が事実上無に帰することになりかねない。もっとも、だからといって、たとえば取材対象の自由な意思決定を不可能にするような取材活動を容認することはできず、そのような適正でない取材活動については国家公務員法111条の適用を認めてもよいと解する。
以上より、私は、取材活動と国家公務員法111条との関係につき、取材対象の自由な意思決定を不可能にするような不適正な取材活動にのみ国家公務員法111条の適用を認め、それ以外の適正な取材活動には同法条の適用を認めないという限定つきで、同法条を合憲であると考える。