人間は誰でも自分の能力に対する悩みを持つ。自分が生きていく上で、自分の能力で食べていけるのか、自分の適正能力を見極めなければならない。また、それが自分の本当にやりたいことなのかどうかわからない場合もあるし、現代ではそもそも自分には何の能力があるのか、何がしたいのか、すればよいのかわからないという人も多い。この物語のように、今やっていることよりも他に本当にやりたいことがある、という葛藤を抱えている場合もある。漁師と画家という職業は、ほぼ正反対の性格を持ち合わせた職業(一方は主に体力、他方はするどい感性が必要となる。)であるといってよいが、そうであるからこそ「君」は深い葛藤を重ねているのだろう。これが比較的類似している職業であれば、ここまでの深い苦しみにはならないのではないだろうか。また、ある程度悩んだとしても、どちらか一方を最終的に選んだとして、それほどもう片方の選択肢に対して未練は残らないのではないだろうか。しかしながら「君」の十年間の厳しい労働の毎日、その中にあっても失われなかった絵画に対する情熱に私は感銘を覚えた
日本文学史2 必修レポート 「読書感想文」
選択した小説…「生まれ出づる悩み」(有島武郎)
・あらすじ
画家を志しながら生活苦のために芸術家としての道に踏み出せない青年の物語である。「私」(有島武郎)がまだ札幌に住んでいた頃のこと、口の重い、背丈が伸びきらないといったような、汚い中学校の制服を着た少年が、ある日の午後に尋ねてくる。自分の描いた絵を見てくれ、というのであった。それは少しの修練も経ていない幼稚な技巧の絵であったが、不思議に力のこもったものであった。その少年は岩内に住んでいるということであったが、それきり「私」との交渉は途絶え、「私」もまた札幌から東京に移って、作家としての生活営む事になる。ところが、十年目のある日、木本君から小包が届き、それは手製のスケッチ帳であった。続いて送ってきた手紙には「故郷デ貧乏漁夫デアル私ハ、毎日忙シイ仕事ト激シイ労働ニ追ワレテイルノデ、ツイ今年マデ絵ヲカイテミタカッタノデスガ、ツイ描ケナカッタノデス」といったことが書かれていた。その手紙を読んで感動した「私」は、「誰も気づかず注意も払わない地球の隅っこで、尊い一つの魂が母体を破り出ようとして苦...