「工芸と美術工芸品の相違点について各自の所見を述べよ。」
「美術」とは芸術の一分野である。美術ということばは明治初期、啓蒙思想家として知られる西周が英語の「fine art」を直訳したものだが、これに類似した訳語はないようで、その後しだいに定着していったのである。しかし「fine art」とは元来、造形美術のみを意味するものでなく、芸術全般を広く含めていうことがあり、その訳語としては概念が明確でないといえる。外国語を訳してつくられた「美術」という語は、その原語の本来の意味を離れ、現代に至るまで盛んに用いられている。美術とは何かという本質的な概念内容を定めることはむずかしく、時代や場所、あるいはそのときの社会現象によって概念が変革していく傾向がある。
一方「工芸」とは人間の日常生活において使用される道具類のうち、その材料・技巧・意匠によって美的効果を備えた物品のことをいう。「工芸」の工の字は象形文字で、握りのついた「のみ」、あるいは鍛冶(かじ)をするとき使用する台座を表したものといわれ、そこから手先や道具を使って物をつくることを意味し、さらに物をつくるのが上手であることをいうようになった...