手形小切手法論文答案練習 手形行為総論
~手形行為と商法23条~
【問題】
Aが自己の取引を決済する際に1年以上にわたってYの承諾を得てY名義で約束手形を振り出してきた場合、AがY名義で振り出した約束手形を取得したXは、Yに対して手形金の支払を請求できるか。
【考え方】
・・・名義を使用されたYに対して手形金の支払を請求できるであろうか、Yは自己名義でのAの手形の振出に対して承諾を与えているので、名板貸人の責任追及(商23条)により、XはYに対して手形金の支払請求ができるか問題となる。
→ 判例上、①名義貸与人が自己の名称を使用して営業をなすことを許容している場合(いわゆる名板貸)に、名義借用者が名義貸与者の名称を使用して手形行為をした事案と②単に手形行為についてのみ名義使用を許諾している場合に、名義借用者が名義貸与者の名称を使用して手形行為をした事に大別できる。
①は、手形行為が一般の営業行為に含まれることから、商法23条適用あることに争いはない。②については争いがある。
(見解)
・商法23条の適否のレベルで問題を解決する立場
1)否定説
…名義貸与者の手形上の責任を否定する。
但し、民法上の表見代理ないし表見法理一般によって問題の解決を図るとする。
2)肯定説
…商法23条の適用ないし類推適用により、名義貸与者の手形上の責任を肯定する。
・他の法律構成により問題を解決する立場
3)第一説
…外観信頼者を保護するため、民法の表見代理ないし表見法理一般によって、名義貸与者に手形責任を課すべきであるとする。
4)第二説
…名義借用者は名義貸与者の機関として手形行為をしたがゆえに、名義借用者の手形行為により名義貸与者の手形行為が成立すると同時に、名義借用者は名義貸与者の名称を自己の別名として手形行為をしたのであるから、名義借用者の手形行為も成立するとする。
【答案例】
YはAが約束手形を振り出すに際して自己の名義を使用することを承諾している、そこで、XはYの名板貸人の責任(商法23条)を追及することにより、手形金の支払を請求することができないであろうか。
1 まず、名板貸人の責任が認められるためには、名義借用者自身が連帯債務を負うことが必要であるので、A自身が手形上の責任を負うかについて、手形行為の署名に際して他人名義を使用できるか問題となるが、肯定すべきである。なぜなら、名義借用者自ら債務を負担する意思で手形行為をなした以上、名義借用者自身の手形行為があるとみるべきだからである。
2 名義借用者が手形上の責任を追うとしても、名板貸人の責任が認められるためには、手形行為について自己の名義を使用することの許諾では足りず、営業をなすことを承諾しなければならない。したがって、手形行為について名義を貸与した者に商法23条を適用することはできない。
しかしながら、振出人名義が名義を貸与した者の名称になっている以上、それに対する信頼保護が必要となる。
思うに、本条は、外観法理に基づいて、名板貸人の承認の結果、名板貸人の承認の結果、名板貸人を取引主体と誤信した第三者を保護する趣旨に出たものである。とすれば、名板貸人が名義の使用に承諾を与えた以上、承諾の対象が営業についてであるか手形行為についてであるかは重要でなく、第三者をして名義貸与者を取引主体と誤認せしめること自体が重要なはずである。
したがって、手形行為の名義使用について承諾を与えた場合にも、本条類推適用により、名板貸人の責任を認めるべきであると解する。
本問でも、XがYを手形行為の主体と誤信していた場合には、YはAと連帯して手形上の責任を負い、XはYに大しても手形金の支払を請求できる。